早稲田大学教授 宮口 侗廸 (第2523号・平成17年6月13日)
旧国土庁時代に始められた「若者の地方体験交流支援事業」が、国土交通省の地方整備課で続けられている。この事業は、地方社会と接することが難しい大都市圏の若者を地方の市町村に数週間預かってもらい、地域のさまざまな活動に参加させることによって、地方社会の存在価値を実感してもらうこと、そしてこのことから将来のUIターンを喚起することが目的である。通称「地域づくりインターン事業」と呼ばれている。
近年大学にもインターンシップにかかわる講座が置かれるようになった。実社会の体験は大学の講義では得られないものであり、学生にとって大きな価値があることはもちろんであるが、しかしこの地域づくりインターン事業は、学生を受け入れること自体が地域の活性化に大きな役割を果たすとの考えに基づいているところが重要である。
大学院生を含む学生の中には、専門的な視点から地域にインパクトを与え得るものもいるし、若者の素直な感性からの提案にも価値がある。しかし、単に未熟な学生であっても、地域にもたらす効果は計り知れない。赤の他人の受け入れ方を工夫し、面倒を見るということは、地域の人たちにわかりやすい共同作業が生まれるということである。そして活動に第三者が加わることによって、きちんとした説明が必要になる。いいところを見せて、もうひと頑張りしようという人も出てくるであろう。これらのことはっ絶対に地域社会の力量を高め、新しい力の育成につながる。長く似たような顔ぶれで歩んできたわが国の地方社会が、未曾有の転換期にある今の時代に発展の契機をつかむには、異質の力との交流が不可欠といってよい。
毎年の報告会では、ほとんどすべての参加者から、この事業の存在意義が熱く語られる。2年間の参加の後、自主的にインターン事業を継続している自治体もかなりある。人に何かしてもらうよりも、何かをしてあげることが自分の力量を高めることに気づいてほしいと思う。そして費用対効果の説明の難しいこの事業が続いていることについて、あらためて当局の労に敬意を表したい。