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小さな合併の高い志

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年2月2日

早稲田大学教授 宮口 侗廸  (第2467号・平成16年2月2日)

地方制度調査会の答申が出され、目安といいながらも、自治体の規模としておよそ1万人以上ということが示された。都市化が進む一方で、多様な農山村や多くの離島を持つわが国においては、自治体のあり方を人口という数値で画一的に考えることは、やはり問題だと思う。

昨秋、島根県の飯南合併協議会に招かれ、「21世紀の農山村はいかにあるべきか」と題して話をする機会があった。飯南とは飯石郡南部の意で、広島県境に近い山村である頓原町と赤来町の協議会である。人口は併せて6,500人に満たない。

送られてきた「まちづくり構想」は感動ものであった。「小さな田舎からの『生命地域』宣言」と題する冊子に示された「まちづくりの視点」の4項目には、「自然に根ざした」「もてなしの心」「小さな田舎(まち)だからこそ」「少ない人口ながらも活力ある」というキーワードが並んでおり、これらは筆者の年来の主張に大きく重なるものであった。

中核都市から遠い農山村は、安易に都市化を目指すのではなく、生命を育む生産の場として、目の前にある空間を使いこなすことを、全力を挙げて追求すべきである。地元の資源を持続的に、しかもあるレベルの経済性をもって使いこなすことは、それを支える地域社会のあり方とともに、21世紀の新しい課題である。もとよりこれは困難な課題であり、高い志のもとに、地域の人のワザとパワー、そして公的な支援の結集が不可欠である。

前述の「構想」には、「里山の地域資源を活かしたビジネスの起業」「住民の自立(律)と行政との協働」など、高い志が随所にあらわれる。この構想が、コンサルタントの手になる美辞麗句ではなく、酪農家を始め、地に足をつけて生活している住民のまちづくり委員会で議論を重ねてつくられたことに大きな意義がある。絵空事ではない、高い可能性を感じさせる。

山碕赤来町長も本田頓原町長も働き盛りの前向きの方とお見受けした。人口は少なくても広大な空間を活用する偉大な山村づくりを、ぜひ進めていただきたいものである。