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郷土の子弟を鍛えて

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年9月25日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第3014号・平成29年9月25日)

今年の夏の甲子園。ポンポン飛び出すホームランに、高校生のパワーや技量は随分向上したものだと驚き感心した。同時に、こんな筋力トレーニングや栄養指導を取り入れたセミプロ級のチームと、わが母校のような田舎の公立高校チームとの力の差は広がる一方だろうとやや寂しい気持ちにもなった。

広域から有力選手を集める新興の強豪校が各地に登場してから、地元出身者だけで固めたチームの甲子園への夢は遠くなった。この夏、甲子園の全国大会に出場したのは49チーム。その中には、18人のベンチ入りした選手のうち10人以上が他の都道府県出身者というチームが17もあったという。かつての郷土の対抗戦のイメージはかなり薄れた。

もっとも、昔の高校野球の伝統が消え失せたわけではない。長崎県波佐見町にある県立波佐見高校は、ほとんど地元出身者だけのチームで見事に甲子園出場を果たした。少年野球や中学校チームでも全国制覇した選手たちが主力だというから、小さい頃から鍛えた成果だろう。人口1万5,000の町のチームの出場は小さな町村に希望を与えるものだ。

甲子園出場は成らなかったが、高知県予選で決勝まで進んだ県立梼原高校の快進撃も見逃せない。人口3,600の梼原町にある高校だが、2006年に生徒数減少で存続の危機に直面し、野球部創設を思い立った。今では町を挙げての支援を受けて、約40人の部員が旧町営幼稚園を改修した建物などで寮生活を送る。町外出身者が多いとはいえ、町ぐるみで育てている選手たちといっていい。

波佐見町は、400年の伝統を誇る焼き物の町。一時は輸入品などに押されて苦戦していたが、窯業と農業を組み合わせたグリーンクラフトツーリズムにより息を吹き返している。高地にある梼原町は、「雲の上の町」を自称する。いち早く風力発電など再生可能エネルギーに取り組んだ町として知られる。

郷土代表にふさわしいチームづくりは、地域の資源を生かしたまちづくりに通じる。甲子園への道は遠くとも、意地と誇りを育む。