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シェフの村おこし

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年8月10日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2929号・平成27年8月10日)

関東甲信越地域限定だが、NHKのテレビ番組に「キッチンが走る!」がある。有名シェフがキッチンワゴンに乗り、各地を訪ね歩く番組である。その土地その季節ならではの野菜や魚介類などの 食材を 探し出し、生産者たちから伝統的な料理の仕方を教えてもらう。最後は、シェフが腕を振るう番である。毎回、食材はあっと驚くような変身を遂げて、お披露目会に登場し、さすが達人技と参会者をうならせる。

これを見ていると、いっそのこと、シェフが村に住み着いたらどうだろうと思えてくる。ここには何もないと謙そんする村や町にも、物語性のあるこだわりの食材の一つや二つはあるものだ。もしそこに食材が 持つ可能性を存分に引き出してくれる腕利きの料理人がいれば、その価値は倍加する。それこそシェフによる村おこしになる。

そのいい例が山形県鶴岡市でイタリアンレストランを営むオーナーシェフの奥田政行さんである。奥田さんは東京で修業した後、ふるさとに戻って店を開いた。庄内地方独特の食材を探し回り、酒田市平田地区の 赤ネギ、月山高原のだだちゃ豆で育てた羊、鳥海山のふもとの海の天然岩ガキなどの逸品を探し当てた。奥田さんの店の看板には、「地場イタリアン」と書かれている。

「適地適作で収穫された地元の素材を熟知した店」という意味を込めている。「地産地消」で始めた店は、本場の味を求めて、仙台など外部から年間1万人が訪れる「地産訪消」の店になった。

全国町村会などの主催で7月に山形市で開かれた「都市・農村共生社会創造全国リレーシンポジウム」に登場した奥田さんは、「各町村に一つずつ、世界に一つだけのレストランをつくる」よう提案した。 奥田流に、地場の在来野菜中心の食材にすれば、世界でオンリーワンの店になる。考えてみれば、昔から素材生産の村と加工の町はそうやって支え合ってきた。シェフの仲立ちにより、新たな支え合いが生まれる。