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マインドコントロール

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年5月11日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2918号・平成27年5月11日)

もう四半世紀も前、オウム真理教教団が熊本県の阿蘇山のふもと、旧波野村に拠点を構えていたころ、取材に訪れたことがある。後にあれだけの大事件を引き起こそうとは、 夢にも思わなかったが、若者を惹きつける秘密の一つは、修行のマニュアル化にあるという印象を持った。この段階でこういう修行をすればこういう神秘体験が得られるという手引が整っている。 若者にとっては、入りやすいし、マニュアルに従って段階を踏んでいくうちに、マインドコントロールにはまるのだろうと推測した。

国から示された地方版まち・ひと・しごと創生総合戦略策定の参考資料や通知を見ていると、転入者数などの基本目標や施策ごとの重要業績評価指標を定めよ、 などと随分と指示が細かいのに驚く。これは、参考どころか、策定マニュアルそのものではないか。自治体に対する老婆心からかもしれないが、 オウム教団など足元にも及ばない念入りなマニュアルによる指導である。

マニュアルがあれば作業は楽だが、マインドコントロールという副作用が働くこともあるから要注意である。人口減少への危機感から始まった地方創生だが、 そもそもなぜ人口が減ってはいけないのか。規制を緩和して市場に任せればうまくいくというのがアベノミクスの成長戦略の基本的考え方だが、なぜ人口については放っておけないのか。 疑問がいくつも湧いてくるが、マニュアルに囚われると思考停止に陥り、そうした根本的な問いを忘れてしまう。

「おれたちが長年積み重ねてきた地域づくりを通してつかんだものこそ本物だ」として、国の微に入り細をうがつ指導に拒否反応を示す地方の関係者は少なからずいるに違いない。 本当は、そういう反骨心こそ地方創生の原動力になる。案外、国からのマニュアル的な参考資料や通知は、地方の反骨心を呼び覚ますための高等戦術かもしれない。だとしたら、 実に巧妙なマインドコントロールだと感心したくなる。