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スコットランド魂

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年1月18日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2704号・平成22年1月18日)

スコットランドには、英国の旅券しか保持できないのは我慢ならないという人もいる。自分はスコットランド人であって、イギリス人ではないというのである。イングランドが他の国とサッカーの試合をする時、スコットランド人はイングランドの相手方のチームを応援するという話も聞いた。もともとイングランドとは別の国だったから、さもありなんだが、 スコットランド魂は強烈である。

そのスコットランドがブレア政権の分権改革によって、念願の自分たちの議会と政府を持ってから十年経った。介護費用や大学授業料を無料化したり、公共の場を禁煙にしたり、徐々に独自の道を歩み出している。風力や波力発電に力を入れ、2020年までに温暖化ガスの排出量を90年に比べ42%削減するという世界でも最高水準の目標も掲げた。

昨年8月、スコットランド司法省は米パンアメリカン航空機爆破事件で終身刑を受けた服役中のリビア人を末期がんであることを理由に釈放した。米国などから激しい非難を浴びたが、スコットランド法では余命3カ月の受刑者には温情を与えるのだと主張して、譲らなかった。

スコットランド議会設立には、市民運動も大きな役割を果たした。その中心にいた市民会議副議長のイゾベル・リンゼイさんは、「ここでは、英国がしばらく置き去りにしてきた福祉国家の理念を大事にしている。環境を考え、持続可能な社会にしていくには、スコットランドくらいの規模がやりやすい」という。

人口や面積が北海道とほぼ同じのスコットランドは、日本でもしばしば分権のモデルとされる。事情は大分違うが、自らの生き方に自信を持ち、目指すべき目標を明確にし、自らの力で分権を勝ち取る姿勢は、見習うに足る。今年は鳩山新政権の「地域主権」改革が本格化する。正直のところ、「地域主権」という言葉には少々違和感があったが、スコットランドの人々に会って、これだと実感した。