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民業創成の条件

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年10月1日

評論家 草柳大蔵(第2371号・平成13年10月1日) 

小泉改革の目玉の一つに官業の民営化がある。市場経済がこれだけ発達していることを思えば、官業を民営化し、競争原理を導入すれば、効率もあがり、サービスの質も良くなると考えるのは当然だろう。しかし、民営化の議論に接してみると、業務の達成度を測るにはどうすればよいか、官業ならではのサービスの残存度をどう考えるのかなどの話がスッポ抜けていることが多い。そういう詰めをしないで、すぐに民業OKの議論になってしまうのは、従来の官業のサービスに“お役所仕事”の融通の効かなさがあったからだろうが、日本人に特有の“右へならえ”の習性も働いているのではないだろうか。

民業だって非能率でスキル・レベルが低く人間的に未成熟な社員がいるところはザラにある。早い話が、外務省のロジ担の課長が公金をピンハネしてデラックス・ホテルにプールした事件があったが、なんとホテルの営業責任者の一人も外務省の課長のプール資金で酒池肉林のたのしみを味わっていたことは記憶に新しい。

つまり、今の日本人は役所の金とか会社の金とか自分のフトコロが痛まない範囲の金なら無頓着に使うようになったのである。地方自治体が行う記念行事を時折見せてもらうが、その多くはイベント会社や宣伝会社のひとりよがりになっている感のものが多い。

「組織と人間」は近代社会が成立して以来のテーマだが、人間をもう一度再点検しないで「官業」から「民営」へ移してしまうと、とんでもない地方自治体が出てくるのではないだろうか。だから「民営はダメだ」とか「時期尚早だ」と言っているのではない。流行の言葉に乗らないで、非効率な民業、赤字を出している民業、業績を挙げている民業、従業員が活き活きしている民業、たくさんの“他山の石”を研修することによって、官業を活かすための民業創成に努むべきだと思う。