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イベントの効用

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年7月2日

評論家 草柳大蔵(第2362号・平成13年7月2日) 

長岡市が主催する『米百俵デー・市民のつどい』に参加して、つくづくイベントの効用を考えさせられた。小泉総理が初の国会演説で長岡藩の小林虎三郎の事蹟に触れ、戊長戦役で疲労の極に達した長岡藩に親戚の三根藩から米百俵が届けられたが、大参事の小林はこれをすぐ炊飯してしまえば3日でなくなるが、金にかえて学校をつくれば100年の人材を得ると死を賭して主張し国漢学校をつくったことを教訓として日本の再建にあたろうと訴えた。

この演説の日から山本有三氏の書いた戯曲『米百俵』の注文が長岡市に殺到、式典当日も参加希望者が1,500名となったため会場を2回も変更する仕儀となった。私がイベントの効用を痛感したのは、第5回受賞者のオーガスティン・アゾチマン・アウニ氏(45)の受賞スピーチのときだった。ちなみにアウニ氏は、独力でガーナに小学校(六百人収容)を建設するため募金活動を行っているが、長岡で英語教師をして得る報酬の50%をこの基金に繰り入れているのである。

アウニ氏は、壇上のテーブルに両手をつくと「すみませんが、みなさん、起立して下さい」と日本語で言った。会場1,500人の人がすべて起立しおわると「じつは、私は子どもが大好きなのですが、ついこの間、大阪教育大付属小学校で子どもたちが無残にも殺されました。やりきれない気持です。どうか皆さん、黙?をお願いします」と言った。

講演の前の一分間の黙?で会場にすすり泣きの音が洩れた。1,500人の大半がお年寄りだった。テレビが放映し新聞が書いた。「小林虎三郎は四次元の世界、つまり見えない世界のために働いたのです。だから偉いのだと思います」

金をかけ、その場かぎりのドッコイショを口にする芸能人まがいの知識人を呼ぶイベントでは、アウニ氏の率直な言葉は聞かれまい。財政緊迫の折から「イベントの効用」を考え直すよい機会ではないか。