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小泉内閣から始まるもの

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年6月4日

評論家 草柳大蔵(第2358号・平成13年6月4日) 

経済の立て直し策にはさまざまな提案があるが、大別すると「不良債権のある間は成長率は望めない」(デッド・オーバーハング)という理論と「古い運河もそこそこに残しながら鉄道網を発達させよう」(カナル・アンド・レイルウェイ・セオリー)という理論である。前者を採用すると“出血”は多いが再建後の成長は速いし、後者をとれば“出血”は少ないが低成長しかのぞめない。

小泉内閣は史上稀にみる高支持率を獲得したが、内閣の性格というよりも日本人の性格として「デッド・オーバーハング」の政策はとり難いのではないだろうか。いわば朱子学(漸悟)と陽明学(頓悟)の違いであるが、頓悟型の改革主導者は大塩平八郎から三島由紀夫まで日本ではほとんど失敗している。

しかし、安心するのはまだ早い。あちらもこちらも生かすという朱子型改革の方が好まれると言っても、経済に対する住民の価値観が変化していることは行政マンとして心得ておく必要があるだろう。

第1に挙げられるのは「エコノミー」から「エコロジー」(環境)へと認識が徐々に移行しつつあることだ。60年代ごろの「経済」か「環境か」という二者択一型の認識ではなく、「環境を生かした経済」あるいは「循環経済」のように環境保護が成長要因となるような経済が望まれている。

第2は、海外の「ローカル」と日本「ローカル」の対決である。液晶ディスプレイからタオルに至るまで低賃金国からの輸入品に押し捲くられているが、いつまでも政府の輸入制限措置が続けられるわけはない。地方産業の再生にむけて、地方自治体はPFIの勉強やら地元の金融資産を資本化する研究に精を出すべきだろう。こうした分野への投資も総務省は認めるべきではないか。

第3は、小泉内閣の新施策にある「土地の流動化に伴う租税の軽減」「土地利用の規制緩和」が物語るように、不動産の「所有」から「利用」へと新しい流れが始まったことである。以上を勘案した「漸悟的改革」が望まれよう。