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普通の考え方

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年9月4日

評論家 草柳大蔵(第2327号・平成12年9月4日) 

いろいろな「アメリカ便り」に見え隠れするキッシンジャー元米国務長官の評判が芳しくない。たとえば、北京で世界経済について講演をすると、日本はもうダメだ、これからは中国の時代だと持ち上げるが、その足でインドのニューデリーの講演会場に臨むと、こんどは中国はもうダメだ、これからはインドの時代だなんてことを平気な顔でしゃべるという。

「いくら商売とは言え節操みたいなものが感じられない」と評者は言うのだが、「商売」であればお客にお上手を言うのはあたりまえで、怒る方がおかしかろう。キッシンジャー氏は政権を去ってからあとはワシントンに経営コンサルタントの事務所をひらき、一時は1時間1万ドルという講演料が評判になったが、この頃は米国資本の投資先を読んで、自分のクライアント(出資者)にそれを伝えることから、国益に私益をかぶせていると批判する人も出るようになった。しかし、これとて、キッシンジャー氏がもはや学者でも行政府の長官でもなく、一経営者であることを考えれば、べつに目鯨立てて論ずるほどのことではあるまい。

アメリカン・ドリームという言葉も、ビル・ゲイツ氏があれよあれよという間に億万長者になったときはさかんに使われたが、一人の「アメリカン・ドリーム」実現者の裏には何千何万人という「デイ・ドリーマー」(夢に破れた人)がいることが一般に知られるようになると、テレビのタレントでさえ口にしなくなったようである。

NHKの「クローズ・アップ現代」まで取り上げた富士山麓の大ブティックだが、知人が夏休みを利用して家族で出かけてみると、人出は大変なものだが、買いもの袋を提げている人はほとんど見られなかったという。それもそのはずで、ここが大繁昌しているのなら、いままで100兆円も投入した内需喚起策はなんであったかと言うことになる。

少し涼しくなった。頭をひやすには好機である。やがて始まる世界貿易機構の農業問題も、農産物輸出国のゴリ押し対輸入国の環境農業論として、胸を張って対処すべきだろう。