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レベニュー・ボンド(財務債)

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年1月3日

評論家 草柳大蔵(第2298号・平成12年1月3日) 

アメリカのCNN放送が大きな仕事を始めた。創業以来放送してきた番組の中から十万本を選び、このアナログテープをすべてデジタル化しようというのである。この仕事を「資産づくり」ととらえているが、早速、アメリカのIBMと日本のソニーが参加している。これから先2年くらいで、すべての情報通信機器がデジタル化してしまうので、CNNは世界中に政治・軍事・外交・経済などの記録を売ることができるわけである。これが実現すると、アメリカの意志による情報操作が容易になるが、そうなるとヨーロッパも黙っていないだろうから、イギリスのBBC放送も同じことを始めるのは時間の問題だろう。

日本の放送界はこれから始まるデジタル化のために設備投資が一局平均50億円かかるとあって、青息吐息である。

しかし、このCNNのデジタル化はひとつの教訓をもたらしたともいえる。それは「文化が事業になる」ということである。従来は「文化」は経済活動のおコボレで支えられているようなものだった。平成不況のもとで各地の交響団や文学賞が消え去ったことが何よりの証拠だろう。しかし、CNNの仕事のように、社会的に意味のあることをシステム化してやれば立派な産業になる。

十数年ぶりで長野県穂高町の碌山美術館を訪れた。驚いたことに、昔は荻原碌山の作品が展示されている一棟だったのが、碌山の親友の戸張孤雁、中原悌二郎の作品を収録する二棟が立ち、各棟をつなぐ解説があって、観光スポットになっている。つまり、「成長する美術館」である。

介護保険も廃棄物処理場も地域連合で片付けようとの取組みが進んでいる。ならば、美術館や文学館も意味を連結させたゾーンを作って21世紀にそなえたらどうか。資金は、対象を限定して発行し地域住民に持ってもらう「レベニュー・ボンド」を発行すればよい。そういう努力が「地方分権」という言葉を「地方主権」という言葉に変えるのではないか。