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県庁おもてなし課

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年6月10日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男(第2843号・平成25年6月10日)

タイトルが気になっていた映画「県庁おもてなし課」を見た。架空の県のハナシと思っていたが、映画が始まって驚いた。舞台は高知県。自治体絡みのネタである上に、 ここ10年間の中で自分の記憶に深く残る現地なのである。

2003年から4年間、地方分権改革対応の諸用件のため同県の依頼で毎年出かけていた。2003年頃に当時の橋本知事の下で創設された「地域元気応援団」(職務上は地域支援企画員)の各人が、 小さな車に乗って県内を走り回っていた。

本誌のこの欄において「自助・自立のための前提条件」(第2465号・平成16年1月19日)で紹介した四国の仁淀川沿いの山間部のお宅での体験は、まさに「おもてなし」の極致であった。「しし鍋」と 「ぼたん鍋」の違い、焼き肉になるシシ肉と鍋にするしかないシシ肉の違いを知ったのもここである。「地域振興」と「おもてなし」の接点現場であった。

今回、2003年当時の地域元気応援団であった県庁OBと、現在の第3代目になる「おもてなし課」女性課長に電話取材をさせていただいた。

右に書いた地域の資産を活かそうとする事業は現在産業振興推進部の地域づくり支援課の仕事であり、「おもてなし課」は観光振興部に所属し、しかも今も別に地域観光課がある。 有川浩氏の原作小説にも出てくるように、「おもてなし課」は一種の「遊撃隊」として描かれており、一貫した観光政策の難しさを考えさせられる。実際、映画にも小説にも随所で縦割行政や役所のセンスなき 動きが描かれている。しかし、小説と映画(映画のHPを含む)と課長の話から窺えるのは、ロケのセットを県庁の廊下に設けたことなど映画製作への全面協力により、 過去の露骨な官僚的体質が少しずつ遺産になりつつあるように思われることである。

映画は、高知県が「ない」ものづくしの県である、という逆手のイメージ戦略。自虐的観光宣伝は最近、他県にも多い。筆者もかねてから似たような地理的条件にある郷里の県の観光政策について同様の 発想を持っていた。ただ、高知県は自由民権運動の指導者植木枝盛に象徴される自治の歴史、自治体連合組織が発足した土地の一つであることなどは、今以上に国民に知られてよい。まぁ、映画にあれもこれも 詰め込むことはできないので、ない物ねだりではあるが。

この小説と映画は、全国各地の観光行政・方針にかなりの影響を与えたようである。小説や映画の題材になるほど自治体が輝けば、関係者の意識改革にもつながるであろう。

この文庫本は、学部生や新入職員のゼミで数回分のネタにはなる地方自治や行政についての問題提起がある。しかし、彼らがどれほど読み取れるかどうか・・・