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放棄地・空き家を正しく始末したいが

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年7月2日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男(第2805号・平成24年7月2日)

耕作放棄地や倒壊の危険性のある空き家が増え、田舎と都市部を問わず、自治体関係者が危機感を強めている。ただし、ここでは、 行政担当者の目からではなく、当該自治体の外に住む耕作放棄地と空き家の所有者の視点で考えてみたい。

筆者は、某政令市で自治基本条例を策定する際に、不在地主がもたらしている諸問題を念頭において、彼らを「市民」に含め、放置不動産の 管理義務を課すことを提案し採用された。ところが、その策定中には、自分がまさにその不在地主であることに気づいていなかった。筆者の実家でも、 各200㎡程度の田と畑がすでに耕作放棄地である。この両土地は、手押し一輪車さえ入らない袋地。無償で貸していた農家の方々も高齢で返還された。 固定資産税は年額でたかだか418円と223円でしかない。問題は、放棄地になると雑草や地下茎が繁茂し隣地に迷惑をかける。袋地となっている自宅は、 市場価格も成り立たない空き家・宅地になる。山中の不使用の墓土地も入れると7筆の土地すべてが放棄地になる。

地元の数軒の不動産屋を訪ねて相談したが、土地も宅地も無価値どころかタダでも引き取り手はないと言う。老朽家屋を壊せば、 更地となり6倍の税額になるから、ボロ家屋になり景観を害しても、年金で払うのは難しくなる。

目の黒いうちに金をかけてでも誰かにきちんと法的に渡したいが、無理のようである。地元の農業委員会をはじめ、関係ありそうな組織に 手当たり次第に尋ねた。国の財務局にも相談したが、結局解決策がないと告げられた。公的機関も仮に金銭を出しても引き取ってくれない。 昨年(2011年)秋にスイスで多数の人に聞いたが、あぜ道、道路の脇、どんなところでも土地は利用されていると言われ、放棄地の意味を理解して もらえなかった。日本では、法治主義精神があっても、今後、何世代にわたって土地の境界や相続関係がいっそう不明になり永遠に放棄地は増えていく。 良い知恵は本当にないのだろうか。