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大規模市町村合併を理解できない国・スイス

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年9月14日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2693号・平成21年9月14日)

最近、言葉の意味づけが急激に変わる事態をしばしば見聞する。地方自治法における行政の総合性は、小さな自治体にもある縦割行政を止めるためのもののはずだったが、いつしか「総合病院」のように診療科(○○課)がたくさんある大規模自治体への合併を意味するようになった。「自立性」、「補完性の原則」、「限りなく連邦制に近い道州制」、「協働」・・・手品のように異なった意味になっていく。

こういう現象は、各国共通だろうか。スイスでは、過去109年の間に市町村数が2,915から2,706(2008年 12月末)にまで減ったものの、実質的には合併はないに等しい。人口100人未満の村が今でも100ほどあって、これらが合併して500人未満の村になる程度である。かくしてスイスの市町村の平均人口は2,846人である。日本の市町村平均人口は、約72,000人(2009年)、スイスの25倍の規模である。

この原稿のため、スイスの多数の小さな村のホームページを見続けた。これまでも書いたように、パートタイム職員まで含めて職員名が公開され、主要な職員は笑顔の写真付き、所掌職務も明示され、小さな村でも過去14年分くらいの広報誌をPDFファイルで公開したりしている。警察官の携帯電話や電子メールIDの公開はいつ見ても驚く。議員で、メールアドレスが載っていいる人はない。市町村規模を問わず議員数は大体5ないし8人程度。彼らは、各行政部門の責任者となる。人名まで記載されているから自治の仕組みが外からわかる。果たしてわが国の町村でそうした対応ができているのか。日本では、合併でいっそう役所が不透明になった。研修や講演のたびに挙手してもらうが、近未来の生活の充実に対する期待は、住民、議員、職員も、そして首長もほとんど持っていない。

大規模化のメリット、総合性の確保を錦の御旗とした合併という日本人の「制度改革信仰」は、いささか度を過ぎている。問題は、二元代表制や選挙制度にもあるのに、住民自治の仕組みはタブーにしたまま制度改革に執心する。他国の「本当の小さな自治」の仕組みを徹底して学んではどうか。