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なぜ、スイスの市町村は小さいか

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年9月1日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男(第2451号・平成15年9月1日)

この夏、所用のついでにスイスのベルン市郊外にある市町村連盟と都市連盟を訪ね、それぞれの事務局長にかねてからの疑問をぶつけた。ドイツなどと同じく、両組織に加盟またはいずれにも未加盟の自治体もある。

この国の人口は726万人で、市町村数は2,880。平均人口は2,550人。ドイツの市町村の平均人口は、6,000人である(いずれも2002年統計)。日本はすでにその15倍の規模である。

二人の事務局長の話を総合すると、二桁の人口や数百人規模の村の合併はあるものの、この数十年間、スイスでは広域合併論や合併推進策はないという。当然、小規模自治体で処理できない事務はある。したがって、広域行政の重要性は充分に認識されている結果、現に多種多様の組織がある。両氏は、これらの組織では、独立した公募人事が行われていて「驚くほど効果的に機能している」と断言した。首都ベルンに隣接する人口3,500人の村に住む都市連盟事務局長は、その村などがベルン市と共に行っている救急業務を例に、綿密な契約書に基づき救急車の出動回数、走行距離、搬送人数などをベースにして1フランの桁まで精算するシステム、市町村とその住民のコスト感覚を力説した。

正確な統計もない多数の広域行政組織が効率的に機能し、独自の公募人事により主体性を持つ。職員人事も民間と公共部門との間で一本化してきた。民間並の複式簿記による会計制度の導入で、民間・公共のマネージメントは共通化し、人材の自由自在な移動が進んだ。税は地方が集めて連邦政府に上納する。財政調整制度はあるが、90年代半ば以降、補助金は全廃され、自治体の財源はすべて自主財源である。

まとめれば、①国と地域を通じた公共部門と民間部門の人事の流動化、②合理的な広域行政体制とそれを支える責任ある人事システム、③自治意識を実感させる自主財源の確立という三つの要素が、民主主義の基礎単位としての小規模市町村を残させている。スイスでは、この20、30年の間に国家高級官僚制がほぼ消滅した。日本へのヒントはここにあるのではないか。