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一村一観光

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年6月9日

静岡文化芸術大学学長・東京大学名誉教授 木村 尚三郎
(第2442号・平成15年6月9日)

本年1月24日、小泉首相主宰の「観光立国懇談会」がスタートし、.か月後の4月24日に報告書が提出された。明治以降産業立国で貫かれてきたわが国としては、まさに画期的である。わが国をいかに魅力的にし、外国人観光客数を2010年までに、今の倍の1,000万人に増やすか。これについての基本的な方向づけが、本報告書の内容である。たんなる云いっ放しではなく、直ちに各省庁のアクション・プログラムに具体化されることを、座長としては強く望んでいる。

懇談会には首相自身も毎回熱心に参加され、「一村一観光」という提案をいただいた。いうまでもなく平松守彦前大分県知事の、「一村一品」運動から出たことばである。一村一品運動によって生み出された産品が、真に価値ある商品に磨き上げられるには、地元に内外の各地から沢山の観光客にきてもらい、「おいしい!」と云ってもらう必要がある。

一村一品の農産物は、土地の空気と水と土、温度と湿度、つまり土地の風土にピタリと合っており、「いのち」溢れる採れ立てをその土地でいただくのが、最高においしい。いかに冷凍手段や輸送手段が発達した現在においても、遠隔地から運ばれ、採ってから時間が経ってしまったものは、「いのち」が細ってしまっている。

その土地においしい食材といい料理技術があり、美しい景観や歴史的建造物、いい町や村のたたずまい、いい鐘の音、いい香りなど、目耳鼻口手足にとっての美しさ、心地よさがあるとき、人は千里の道を遠しとせずやってくる。土の匂いのするそのいい生き方こそが文化であり、恋人のような地域の「魅力」を形づくるからである。その魅力が内外の観光客を惹きつけ、「生きる歓び」を与えるとともに、地場産業を活性化させ、おカネと幸せ、生きる自信と誇りを地元の人びとにも与える。

「一村一品」を、「一村一観光」に高めるときがやってきた。