ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ

絵葉書

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年11月25日

静岡文化芸術大学学長・東京大学名誉教授 木村 尚三郎
(第2419号・平成14年11月25日)

 

自分の町や村をよその人に知ってもらい、実際に来ていただくのは、町村振興のための第一歩である。そのために絵葉書は、もっと活用されていい。フランスならどんな地方に行っても、駅の売店とかカフェ、レストランなど、人が集まり、立ち寄るところに、必ずといっていいほど美しい絵葉書がある。旅人はまずその絵葉書を買い、「行ってみたい」と、見知らぬその町、その村に興味関心を抱く。

この絵葉書が、日本の各地でほとんどダメで、残念な限りである。何がダメかといえば、たとえ絵葉書が存在したとしても、それがどこに売っているのかが分からない。駅に置いてあることは、まずない。書店とか文房具売り場にあるとしても、その所在地がよそ者には分からない。その土地に知り合いでもなければ入手困難、ということになる。

もうひとつ困ったことに日本の場合、絵葉書の写真が文字通り「絵葉書的」な風景写真で、現代人の興味関心を惹かない。ただの風景なら年間1,700万人の海外旅行者が、絵葉書よりもっといい外国の風景に、いやというほど接している。

今の私たちは、その土地にしかない「くらしといのち」の輝きを、絵葉書を通して知りたい。鳥であれ、獣であれ、昆虫であれ、花や緑であれ、その土地にいきいきと息づく「いのち」の姿を見たい。四季折々の風俗習慣や文化が、その土地に根を張り、たくましい生命力を発揮しているさまを見たい。そこに住む人びと、お年寄りや子どもたちの、幸せな笑顔が見たい。

テーマを設けてフォトコンテストを行い、「人くさい」絵葉書の作成をと、願うことしきりである。地元からの便りにも、その絵葉書を使ってもらう。きわめて安上がりで効果的な地域の情報発信であり、地域振興策であると思う。