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人件費をいつも悪者にする不思議

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年9月15日

横浜国立大学経済学部教授 金澤 史男 (第2653号・平成20年9月15日)

地方財政計画や地方交付税の水準を議論する際に必ず登場するのが人件費の問題である。いわく、人件費の比率増大は財政の硬直性をもたらす。いわく、決算の人件費が地財計画のそれを上回るのは、人件費を水増ししたのではないか。

たしかに、人件費が公共サービスの主要なコストである以上、無駄があっていいはずがない。最大限知恵を絞り効率的に活用することが求められる。しかし、削れば削るほどよいという人件費「悪者論」には強い違和感を覚える。

そもそも、日本の財政支出における人件費の比率は、主要国と比べて際立って低い。2004年の一般政府支出を国際比較したOECDの統計によれば、日本は6.4%で、これに一番近いドイツでも7.7%、アメリカ10.3%、イギリス11.2%、フランス13.3%、スウェーデンに至っては16.3%である。では、スウェーデンが財政硬直化や低成長で行き詰まっているかと言えば、まったく違う。むしろ、介護や育児に必要かつ十分な人材を公務員として配置し男女の別なく働き手が仕事に集中できる環境を作り、社会全体の効率を高め安心できる社会を作り出している。人件費は消費となり内需を支える役割も果たす。今、これは、北欧型成長モデルとして注目されている。

人件費の削減ありきの考え方は、官よりも民の方がコストが低いことを根拠に民間委託やアウトソーシングを進めようとする。実際、総務省が2003、04年に実施したアンケート調査によれば、外部委託の理由は、「事務の効率化や経費削減」、未実施の理由は「外部委託の方が経費が割高」が多い。「専門性等を活かしたサービスの実施」より経費削減の成否が基準となっている。

だが、民のコストが安いのは、受託する民間企業の働き手の多くが派遣やパートだからである。自治体の人件費「悪者論」は、格差社会を生み出す一つの震源ともなっている。若者をはじめとして住民に希望を与え、安心して働ける環境を作り出すために、自治体に必要な人件費の財源を保障する制度設計が求められている。