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『平家物語』

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年7月23日

千葉市男女共同参画センター名誉館長・NHK番組キャスター 加賀美 幸子
(第2808号・平成24年7月23日)

今年の大河ドラマは『平家物語』だが、ラジオの「古典講読」の時間でも「時代背景から読み解く平家物語」を放送中で、当方は原文朗読を担当している。 

『源氏物語』でも『枕草子』でも『徒然草』でもその他どの古典も、近しく易しく読んでいると、自然に、多くの生き方のメッセージが聞こえてきて、 惹きつけられ、手放すことができなくなる。当然のことだが、研究者ではないのだから勉強ではなく、親しく近づいて、原文で読むことにしている。 

『平家物語』にしろ『源氏物語』にしろ、かつて紙は貴重で、庶民には行きわたらなかったはず。多くの人たちは乗り出して耳で聞いていたのだから、 書く方も分かりやすく綴ったにちがいない。だから、原文を声にだして読むと、黙読より、楽に読めるのである。日本語の響き・言葉の心・言葉の力が内容を確かに伝えてくれる。 

『平家物語』は特にそうである。琵琶法師の語りで読み継がれてきた物語。伝本によって違いも多い。時代により、人により、その時の価値や思いで、 少しずつ変形していくのも自然のこと。その違いを楽しむのも、又、面白い。あくまで史実そのものではなく、物語の意味がそこにはある。  

悪行を重ねた平清盛だが、もとは貴族や周りからの激しいいじめや不本意な扱いに堪忍袋の緒がきれてしまい何倍もの仕返しをしたともいえる。 その激しさと弱さ。本来は宗教的であったり、工事における人柱をやめさせたり、身内を大事にしたり(それが平家討伐の引き金となるのだが)…。一方、 清盛が目の敵にする頼朝は、身内(義経や行家たち)を殺傷したり退けようとする…。それにしても、平家の政権はたった25年であり、鎌倉幕府は150年の政権。 なにがそうさせたのであろうか…。その後徳川幕府は265年も続く。士農工商の時代。その中での生き方、人々の流れ…日本の地図も改めて見えてくる。