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憧れの郵便馬車

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年1月9日

千葉市女性センター名誉館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2702号・平成21年8月10日)

「高校三年生」「東京のバスガール」「高原列車は行く」「あこがれの郵便馬車」「ねこふんじゃった」などの作詞家・丘灯至夫(おかとしお)さんが、92歳で、この晩秋、旅立った。

何故かその数日前から、私は「♪南の丘をはるばると 郵便馬車はやってくる うれしい便りをのせて 蹄の響きも軽く」と「あこがれの郵便馬車」の歌が口をついて出てくるのであった。朝から晩まで、何日も、気がつくと歌っているのである。

勿論偶然ではあるのだろうが、訃報と重なってなんだか不思議でならなかった。丘さんの歌は明るくしみじみと心に届くので、若い時から歌い、放送番組でも何度も対談をして、そのお人柄に触れてきた。丘さんは福島県生れ。小さい時から体が大変弱かったという。「明るい詩を書くのは、体が弱く、友達と自由に遊ぶこともできない自分を励ますため、その心を言葉に乗せて少年時代から雑誌に投稿してきた。又、乗り物の詩が多いのは、体が弱いため、なかなか外にも出られず旅にも行けなかったので、夢の中乗り物で福島を旅立ち、各地を自在に駆け巡っていたから」という。

かつて体は弱かったけれど、92歳まで活き活きと歌に囲まれて過ごされた丘さん。「体の弱さと長生きとは関係がない」とおっしゃった言葉が忘れられない。

ホリスティック医学(西洋医学・東洋医学全体で人間の体を見る医学)の第一人者・帯津良一先生は「人間はボディ、スピリット、マインド」(体、命、心)で成り立っている。だから体・臓器のひとつひとつを修復しても健康とは言えない。心や命は見えないけれど、そこに“生きるエネルギー”が潜んでいる」と。

見えないけれどみなぎる歌の力・歌の心。ボディーは消えても、スピリットとマインド(心・命)は、今も自在に飛びまわっているのかもしれない。「あこがれの郵便馬車」に乗って、人々の所にやってきている丘さんを感じるのである。