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頭の良し悪し

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年11月27日

千葉市女性センター名誉館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2581号・平成18年11月27日)

物覚えが悪くなり、物忘れが多くなったのは、年のせいだろうか。いや、もともと頭が悪いのかもしれない…と最近よく思う。ところが同じような言葉をしばしば耳にし、一部を除いて誰もが加齢や資質のせいにしていることに安堵し、つい、脳をサボらせてしまっている自分に気づく。頭の良し悪しは、IQや驚異の記憶力のことではないとは認識しつつも、それは自己弁護や正当化であり、内心ではやはり、老化や資質に結び付けてしまうものである。しかし、本当の頭の良さとは、前頭葉のよき働きにより引き起こされる、判断力、想像力、抑制力、忍耐力、意志や意欲、感性の瑞々しさ、好奇心…等々、勿論記憶も含めて人間らしい力をさすという。このことは学問的にもはっきりしていると、先日脳科学者・篠原菊紀先生から伺い、精神論ではなく、脳科学の裏づけがあることを知り、ほっとしたのである。

それらは年を重ね、経験が多いからこそ、持ちうるものであり、脳細胞が若い時より少なくなっても、カンは働き、いよいよ冴え、それはかけがえのない頭の良さ(クリスタルインテリジェンス)とのこと。しかも周りに関係者の少ない子供時代や若い時とは較べようもないほど、年をとれば取るほど、知り合いの数も増え、会う人も多いのだから、名前を忘れたり覚えきれないのは当たり前、何の不思議も無いこと、と改めて伺い、又安心するのである。「覚えられない、忘れる」というマイナスの捉え方はストレスにもなりかねない。ストレスは前頭葉にとって大敵なのである。

しかし一方で脳はサボらせてはいけないとも言われる。大事な前頭葉が活性化してこそ、活き活きと人間らしく生きられる。そのためには、日々、慣れている仕事を、いくら熟練の域とはいっても、家庭や社会の中で、楽にこなすだけではなく、いつも少し無理をして、脳を刺激し活性化させる。サボらせず、新しい努力を脳にさせる。それは熟練工に終わるか達人になるかの違いとも言えるようである。