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鰺ヶ沢の四姉妹

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年7月7日

千葉市女性センター館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2445号・平成15年7月7日)

4人姉妹に会ったのは、春まだ浅い津軽の3月のことであった。

北は日本海に面し、南は世界遺産の白神山地に抱かれた、人口約14,000の港町鯵ヶ沢。かつては海上交通の拠点として賑わい、交易港として、又漁業の町として、海とともに生きてきた長い歴史が心豊かにのぞく風土である。

時々、都会では得がたい旬の魚や山菜が届けられ、山海の味を通して思い描いていた鯵ヶ沢に、講演で伺う機会に恵まれたのである。テーマは「生き方の鍵を探る」。主に熟年が対象であったが、終わった後で、土地の人々とお別れの挨拶を交わしているとき、中に、初々しく、でもしっかりした視線を持つ4人の少女が、こちらを見ている様子に気づいた。両親に言われて無理して顔を出してくれたのであろう。嬉しくはあったが、申し訳ないような気がして、有難うと声をかけた。大学生の長女Sさんと次女Tさん。高校生Mさん。新中学生Kさん。皆、私の話を真剣に聞いてくれたという。しかし、一期一会として大事に刻みながらも、その時はこれで終わりだと思っていた。

ところがすぐ長女Sさんから、乱れのない文字と文章で、講演の確かな感想と人生への思いが綴られた見事な手紙が届いた。暫くして次女Tさんから、清々しい文字で両親の生き方と講演の内容を過不足なく捉えた便りが来た。三女からも四女からもそれぞれ、深い心が伝わる手紙が届いた。ただの挨拶文ではないのは勿論だが、共通しているのは丁寧に書かれた文字の精神性。更に惹きつけられたのは4人が4人共、父と母について、説明的ではなく、鯵ヶ沢の自然のように、淡々と語っているのである。いつも思ってなければ書けない自然さ。その中のひとつ、彼女達の父は「汗をかくこと。恥をかくこと。文章を書くこと」を大事に自分を磨きなさいと言い続けたそうである。

丁寧な手書きの文章が人を引きつける力を、改めて4人姉妹から嬉しく感じたのである。