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心やさしき若者たちの居場所

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月19日

作新学院大学経営学部特任教授 橋立 達夫 (第2984号・平成28年12月19日)

最近の学生たちの気質を見て、強く感じることがあります。とても心やさしく、素直で、言われたことはそつなくこなすのですが、自分から動くという気配に欠けているのです。授業中に質問しても手が挙がりません。なぜかと聞いてみると、異口同音に「目立ちたくない」という答えが返ってきます。目立つことをすると人に疎まれていじめの対象になるという恐れが意識の根底に深く刺さっていると言うのです。

これはかなり由々しき問題です。いじめによる子供たちの自殺が、文字通り氷山の一角で、水面下では恐ろしく大きく広がっていることが分かります。それは単に子供社会の病巣というだけではなく、新自由主義経済の下での格差社会、弱肉強食の社会の影響が、子供たちの心に暗い影を落としているのではないでしょうか。そして自ら動こうとしない子供たちは、強いリーダーに牽引されることで、あるいは多数派につくことで安心感を得るのです。なんだか日本の政治の縮図を子供の世界に見ているようです。

さて一方、心やさしい若者たちは、ボランティア活動に対する強い関心を示します。多くの学生が、「何か社会の役に立つことをしたい。」「将来的にもそういう仕事をしていきたい。」と言います。現に、地域おこし協力隊を始めとして、たくさんの若者が、地域の活性化のために地方に居を移し、活躍しています。縁もゆかりもない地域に飛び込んで行って、活躍している彼らを見ていると、その勇気に心打たれます。しかし彼らは、縁もゆかりもない地域だからこそ、過去のしがらみがなく、そして目立つことをしてもいじめられることのない世界に新しい居場所を見つけているのかもしれません。そこには若者が居ることを歓び、温かく迎え入れてくれる異世代の人たちがいます。強いけれど人情溢れるリーダーがいます。そして、自分が居ることで地域の方々の役に立てるという、使命感のある役割があります。

いじめの問題には根本的な解決が必要ですが、そのような問題を起こさないもう一つの世界が地域の中にあること、そして人を温かく包む地域の方々の人間力こそ、この国の未来を支える力になりうることを再認識したいと思います。現実の地域はそれほど甘くないという批判を乗り越えて。