ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 人の心の美しい綾織がみられる里

人の心の美しい綾織がみられる里

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年4月14日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2876号・平成26年4月14日)

今から15年前、岩手県遠野市の道の駅「遠野風の丘」に、地域の女性たちのグループ「あやおり夢を咲かせる女性の会(以下「女性の会」)」が、「夢咲き茶屋」を開店した。 そばとおにぎりとだんごの店である。女性たちは寝食を忘れるほど働き、初年度にいきなり2千5百万円の売り上げを達成した。慰労会に招かれた市の職員は、 会場にお年寄りや子供たちが大勢集まっている情景に驚いた。聞けば慰労会は自分たちスタッフのためではなく、事業に打ち込むあまり不便な思いをさせた家族のためだったのである。 なんという心配りであろうか。

遠野市西部の綾織地区は、600戸ほどの農村集落である。ここで20年前に立ち上がった「女性の会」は、当初の夢語りワークショップで確認された活動の目標を軸に、農村環境の改善、地域ビジネス、 女性の活動支援、イベントなど、様々な分野でしなやかで力強い活動を続けてきた。会の活動が最初に注目されたのは、市役所に働きかけて田んぼの真ん中の公衆トイレを実現させた時である。 女性ならではの発想が共感を呼び、会は地域社会に認められる存在となった。その後、夢咲き茶屋や北東北3県の「なべなべサミット」を成功させ、天皇杯をはじめ様々な地域づくりの賞を受賞してきた。 現在は30代から80代まで、32名の会員により、農村活性化に活躍中である。

夢咲き茶屋は地産地消と健康に配慮した食事を提供し、今も来訪者、地域住民に大きな支持を得ている。また子育て優先のワークシェアリング型職場として若い女性も雇用し、 世代間の交流や伝統的食文化の継承にも大きな力を発揮している。現在は2号店の「結和」を開店し、活動はますます広がっている。しかしこうした成功の中でも、リーダーの菊池ナヨさんは、 会の基本精神を忘れないようにと、現在のメンバーとOGみんなで温泉旅行に行き、活動の心を語り合う機会を持つことにしたそうである。素晴らしいリーダーの下で、 文字通り人の心の美しい綾織がみられる里の物語である。