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過疎化の進む山村 逆転の発想

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年12月16日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2863号・平成25年12月16日)

「過疎化の進んだ地域では、それだけ一人当たりの資源量が増しており、住民は宝の山の上に寝ている状態にある。」と農山村のまちづくり研修会等でよく話してきた。しかし、 その宝を使って地域の活力を高める具体的な方法を見つけるのはなかなか難しく、「せめて今いる方々が生き生きと暮らそう。その中で育った子供たちは将来戻ってくる気持ちになる。 また人を惹きつける魅力にもつながる。」と言うくらいしかできなかった。

今、この問題に対する画期的な提案が注目を集めている。『里山資本主義』(注)の考え方と、その具体的な取り組みである。 地域にとっても国にとっても莫大な資金流出の根源となっているエネルギー源を石油から木材に代えて、資金を地域内循環に向けることで、産業と雇用を生み出すということである。 日本の林業は、もうずいぶん長いこと経済性がないということで低迷を続け、山林の管理もおろそかになってきた。しかし国際的な森林保護や脱原発の機運、木材加工技術の画期的進展(同書によれば、 ヨーロッパでは新技術により木造9階建てのビルが実現しているという)など、林業には追い風が吹きつつある。

先進地のオーストリアでは、すでにエネルギー生産量の3割近くを再生可能資源によって賄っており、たとえば人口4千人の過疎の村が木材産業と、 そこから出る端材や木くずを活用したペレットボイラーによるバイオマス発電及び地域熱供給を採り入れることで、千百人の雇用と健全な財政を創出した例もあるという。 国内では岡山県真庭市の民間企業による取組がその嚆矢となっているが、現在、高知県大豊町で実証実験が進んでいると聞く。

「暴走する資本主義」の権化のようなTPPの脅威が迫っている中で、農山村がそれを迎え撃つためには、かせとなるエネルギー問題を自立型に改革し、 さらにお金ではなく農産物や手間を介した心の交歓という農山村本来の生き方の豊かさに目覚めることが求められる。

 

(注) 藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義』 角川書店2013・7