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地域の教育力

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年10月12日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2696号・平成21年10月12日)

私の学部の学生は、入学時には9割が公務員になりたいということで入ってくる。そこで公務員になりたいならまずは社会に役立つことから始めようと、5年前から新入生必修のプログラムとして茂木町(もてぎまち)の休耕田で田植えと稲刈りの実践活動をしてきた。

腰が曲がって歩くのもままならないようなおばあちゃんが先頭切って田んぼに入り、学生たちの何倍もの稲を植えていかれる姿を見て、学生たちは、「おばあちゃん、すごいね」と感嘆する。帰り際、そのおばあちゃんは涙を流さんばかりに喜んで、「こんなに楽しいことはなかった」と言って下さった。今の学生には、社会に役立つという経験がほとんどない。「家の手伝いなんかいいから勉強しろ」と言われながら育ってきた。その結果、時には自分が何で生きているのかと疑問に思い終には自殺を図る。そんな中で、「もし将来そんなことを思ったらここに来なさい。君たちがいるだけでこんなに喜んで下さる方がおられるのだから。」という話をする。大学でこういう話をさせていただけるだけで本当に有難い。

平成18年から取組んだ文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(略称「現代GP」)」の一環として、学生たちは農業大学でもないのに農園を運営し作物を販売する実験を行った。その過程で農家のお年寄りがたくさんの作物について栽培方法を事細かに教えてくださった。竹の伐り方を実践指導し、その竹であっという間に竹とんぼを作られる。困難にも臨機応変に対応される。一言ひとことが豊かな経験と知恵に裏打ちされて深い。学生たちは人間力ともいうべきお年寄りの総合力に尊敬のまなざしを向ける。こうした活動の中で学生たちは育ってきた。最初は私の後についておずおずと行動していた学生が、最終的には私がいなくても自主的にどんどんプログラムを組んで活動するようになった。「命」、「福祉」、「環境」などについて、座学に勝る「地域の教育力」に圧倒されて過ごしたこの2年半であった。