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遠隔管理システムの功罪

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年7月23日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2609号・平成19年7月23日)

日本の重機メーカーが開発した、建設機械の遠隔管理システムが世界の注目を浴びている。ブルドーザやパワーショベルにICチップが装着されていて、世界中で7万台もの建機の位置や稼働状況がリアルタイムで把握できるのだそうだ。機械の状態や故障なども個別に把握・記録が可能で、所有者は適切なメンテナンスをすることができる。作業中の建機の移動の軌跡を見ることにより、作業の進捗状況を的確につかむこともできる。また建機が動いているはずのない時間にエンジンがかかったりしたら、所有者に連絡を入れるというサービスもあり、盗難と見られる場合は遠隔操作で鍵をかけることも可能で、犯人逮捕に結びついたこともあるそうである。

しかしこの遠隔管理システムは、働くものの立場から見れば、少々困った問題を孕んでいる。エンジンの稼働時間と作業時間の記録も把握できるので、オペレーターはいつも勤務態度を見られていることになる。クーラーの利いた車内で居眠りなどをしていたら、車載電話で警告などということが現実になる。中南米の顧客からは、「作業効率が上がった」と喜ばれているそうであるが、人間が人間の行動を管理するという技術の成熟に、若干の不安を感じざるを得ない。アメリカでは、性犯罪などの累犯者は体にICチップを埋め込まれ、常に所在をチェックされるシステムが稼動しているという。

今、年金記録の取り扱いの不始末が社会問題化したことを機に、ICカードによって社会保障番号を一元化し、管理しようという機運が生じている。ICカードには医療や介護保険などのデータを組み込むことも考えられている。住基ネットに反対した世論も、今回は沈黙しているように見える。しかし福祉や健康、医療、年金などに関する一元化されたデータを国が握ることの意味は、住基ネットの問題をはるかに超える。

この先はSFの世界になるが、前述の建設機械の遠隔管理の話と重ね合わせると、近未来のブラックユーモア的世界が垣間見えてくるというのは考え過ぎだろうか。