農林水産省大臣官房企画官 木村 俊昭(第2702号・平成21年12月14日)
私は昭和59年4月から小樽市職員となり、財政部、議会事務局、企画部、総務部、経済部に22年間の勤務後、平成18年4月から内閣官房・内閣府企画官として地域活性化を3年間担当し、本年4月から農林水産省企画官に出向となった。現在、地域と大学との連携による農林水産業を中心とした地域の担い手育成、地域ビジネスの創出(農商工連携)などを担当させていただいている。職務上、地域活性化の動向に関して、特に農商工連携等事例の解説や地域リーダーの育成などの講演依頼を受ける機会が多い。
今回のテーマは、「現場から見た 「地域活性化」とは?」であるが、普段の業務時や講演時の質問のなかから、地域活性化の気づきを2つ記述してみたい。
一つは、地域をよく知る機会の創出である。これは「まちの魅力は何か?」や「地域活性化とは何か?」「地域資源では何が有効なのか?」とい う質問に対しての私からの回答である。自らのまちの貴重な資源を知ることから地域間比較ができ、まちに愛着心を持つことが重要である。特に、地域の子どもたちに「恕」の心を持って地域を知る機会を創出することがとても大切と実感している。そのため、これまでに、三世代交流の「まち並み産業散歩(兼まちの語り部育成)」や「キッズベンチャー塾」などを企画し実践してきた。この事業を通じて、次世代を担う子どもたちが地域の産業文化や地元で汗を流し努力している人とふれ合う機会を設けることとなり、継続的な人的資源の確保につながると考えている。
もう一つは、地域活性化は「部分最適化」ではなく、「全体最適化」を目指すということである。実情としては、短期的な結果を気にするあまり「中心市街地をどうすべきか?」、「空き店舗、空きビルをどうするのか?」や「温泉地区をどうすべきか?」といった内容で部分最適化をかけてしまう傾向にある。その場合には部分最適化をつないで広がりを出す創意工夫が必要である。中心市街地や温泉地区を活性化するだけで、その他との関連づけなしには地域全体が活性化することは決してあり得ないと考えられる。中心市街地や温泉地区は、あくまで一定の広がりをもつ地域の一部に過ぎない。したがって、地域全体の活性化計画の中に位置づけて、それらの地区の活性化の影響が、地域全体に波及するような配慮が必要なのである。そうでなければ、それらの地区の効果は一過性に終わり、さらなる継続・進化を遂げることも期待できなくなるといえる。
ところで、行政が起業セミナーや企業誘致活動を企画・実践する場合、出席者数や企業誘致数などの数値目標を主と設定し実行しているのではないだろうか。そして、その結果自体を起業セミナーや企業誘致活動の成果としてはいないだろうか。しかし、起業セミナーの開催は出席者のなかから起業者が出ることが目的であり、企業誘致活動は誘致数より地域の主たる産業や既存企業との連携による地域産業全体の強化が目的である。後者を例にすれば、誘致数を重視する(部分最適化)あまり、誘致後に地元企業が弱体化するのでは、利益よりも弊害が多くなる。したがって、地域全体をいかに強化する(全体最適化)かという点が、今、地域に求められていることだと考える。
補助事業などの適用(部分最適化)が優先され、全体デザイン(設計)を充分に行う(全体最適化)ことなく、政策を実施することは、地域全体を弱化する結果になりかねない。地域を回るたびに、いわゆるシステムデザインが必要と感じるのである。その場づくりのためにも地域と大学の連携(地域活性化講座の開講)が益々重要となってくると考えている。
現場から見た「地域活性化」においては、信頼感あるキーパーソンとの連携とともに、「戦略的なシステムデザインによる活性化」が大変重要な視点と考えているところである。
(参考)
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