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自治体に求められる二つのこと ~「仕事のあり方・仕組み等の見直し」と「人材育成」~

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年11月17日更新

九州大学大学院法学研究院教授 嶋田 暁文(第3340号・令和7年11月17日)

1. どういう順番で仕事をするか?

図表 仕事の四つのタイプ

 仕事は四つのタイプに分けられる。①「重要かつ緊急な仕事」(第1領域)、②「重要だが緊急ではない仕事」(第2領域)、③「重要ではないが緊急な仕事」(第3領域)、④「重要でも緊急でもない仕事」(第4領域)がそれである。

 どの順番で取り組むのか。当然最初に着手するのは、①「重要かつ緊急な仕事」(第1領域)であろう。議会対応、トラブル対応、締め切りが迫った大事な文書の作成、期日が迫った重要な会議の準備、重要な会議への出席などがそれである。

 問題はその次である。④「重要でも緊急でもない仕事」(第4領域)に着手するというのは考えにくいので、着手するのは、②「重要だが緊急ではない仕事」(第2領域)か、③「重要ではないが緊急な仕事」(第3領域)かのどちらかになろう。

 この点、実際のところ、圧倒的多くの人が着手するのは、③「重要ではないが緊急な仕事」(第3領域)なのである。たとえば、期限が迫った国等からの調査モノに回答するとか、重要案件とは言えないメールの返信などがそれである。人間というのは、「重要性」よりも、「緊急性」に引っ張られるものなのである(本田賢広『実践! 1on1ミーティング』日経文庫(Kindle版)、2021年、31頁)。

2. 「重要だが緊急ではない仕事」の後回しによる二つの甚大な悪影響

 上記の結果、 ②「重要だが緊急ではない仕事」(第2領域)は後回しにされることになる。「もう少し余裕ができたときに取り組もう」などと言ってはいても、結局着手されないままに終わってしまうことが多い。これにより、中長期的に二つの甚大な悪影響が生じることになる。なぜなら、第2領域には、「仕事(事務・事業・業務)のあり方や仕組み等の見直し」と「人材育成」という、中長期的に見て極めて重要な二つの仕事が含まれているからである。 

2―1「仕事(事務・事業・業務)のあり方・仕組み等の見直し」の後回しによる悪影響

 まず、「仕事(事務・事業・業務)のあり方・仕組み等の見直し」(以下、「見直し」と略す)が後回しにされてしまうと、「これって本当に意味あるの?」と疑問を抱かざるを得ない仕事、形式だけの余計な手続き等が廃止されることなく、どんどん増えていくことになる。すると、そうした仕事・手続き等のために時間を多く割かざるを得ないため、組織の余力がなくなってしまう。そして、それによりますます見直しが困難になるという「負のスパイラル」に陥ることになる。

 自治体現場の多忙化には、①法制定・改正や国の政策方針に基づく新規事業によって仕事が毎年増えていく、②それに見合った職員数になっていない、③財政的に余裕がないがゆえに財源獲得のための計画策定等の業務に忙殺される、④国等による調査モノが多いといった、さまざまな要因が影響している。確かにそれらも大いに問題ではある。だが、それらと並んで、もしくは、それ以上に多忙化(だけでなくブルシットジョブの増加にも)に寄与してきたのは、「見直しの後回し」という職員自身の行動特性なのではないか、というのが筆者の見立てである。

 自治体現場の多忙化は、いよいよにっちもさっちもいかない限界レベルにまで至ってきているように思われる。職員たちは日々の仕事をこなすだけで精一杯で、立ち止まって考える余裕すらなくなっており、仕事を通じたやりがいも感じにくくなってしまっているように思われるのである。


2―2「人材育成」の後回しによる悪影響

 次に、「人材育成」が後回しにされてしまうと、当然だが人が育たない。いつまでたっても指示待ちで、言われたことしかできない職員ばかりになり、時として信じがたいミスも発生しかねないため、上司はマイクロマネジメントに追われまくることになる。

 特に重要なのは、人が育たないと、自治体行政としての問題対応能力・問題解決能力が低下するという点である。特に町村部では、人口減少・高齢化の進展により、空き家の増加、耕作放棄地の増加、獣害、コミュニティの相互扶助機能の低下、公共交通の衰退(通院や買い物等のための移動の困難化)などさまざまな問題が生じており、それへの効果的な対応が自治体行政に強く期待されているにもかかわらず、である。

 思うに、住民からの期待に応えるには、自治体職員は少なくとも次の三つの行動パターンから脱却する必要がある。

 第1に、「できない理由」に逃げることからの脱却である。たとえば、「みんなが行きたくなるような観光マップを作ろう」という話になった際に、「紹介する場所が恣意的になってしまうと不公平になるので問題だ」という「公平論」で終わってしまうとか、「こどもの遊び場が減っている。里山を整備してこどもの遊び場にしてはどうか」という意見が出た際に、「もしもこどもが怪我をしたらどうするのか。おまえが責任をとれるのか」といった具合に「もしも論」で終わってしまうことが、自治体組織では大変多いからである。

 言うまでもなく、「公平論」や「もしも論」は大事である。これらを考慮しない者は公務員失格であろう。しかし、そこで終わって何もしないというのでは、住民の期待に応えられない。「公平論」や「もしも論」を踏まえた上で「できない理由」ではなく「できる方法」を考えるべきなのである。前者の問題を例にとれば、住民や専門家を交えた委員会を作ったり、住民アンケートをしたりして、そこでの総意に基づいて優先順位をつければ問題は生じないであろう。あるいは、NPOに声掛けして、制作してもらい、自治体は補助金を出したり、出来上がったものをあちこちに置いてあげたりするといったふうに「協働で乗り越える」という方法もあるはずである。

 第2に、「与えられた仕事をこなす」姿勢から脱却することである。この点を考える上で有益なのが、元・墨田区役所職員の村瀬誠氏のエピソードである。彼が入庁して初めて担当したのは、銭湯や美容室の消毒の基準を守ってもらうという仕事であった。1970年代のことなので、当時は銭湯利用者が多かった。そうした中で当時は銭湯事業者が塩素消毒をしすぎるという問題があったのである。村瀬氏の先輩たちは各銭湯を回りながら、基準を守ってくれるよう行政指導をしていた。しかし、指導した直後には基準を遵守してくれるものの、数ヶ月後に再度訪れ検査すると、また違反しているという有り様であった。先輩たちは「全く遵法意識に欠けている」などと文句を言いながら仕事をしていたのだった。

 だが、村瀬氏は違った。「この仕事の目的は、行政指導して回ることじゃない。塩素消毒が強いと、小さなこども、特に皮膚の弱い赤ちゃんはお湯に入れると痛がって泣き出してしまう。当然体にもよくない。だからこそ、基準を守ってもらうことが必要なのだ。みんなが安全に気持ちよく銭湯に入れる状況を実現することこそ、この仕事の目的だ」と考え、銭湯事業者に対して「なぜ守らないんですか」と聞いてみたのである。すると、「自分たちだって違反しようと思って違反しているわけではない。これで生活しているので、万が一レジオネラ菌が発生したりして営業停止になったりしたら大変だから、つい『念のため』と思って塩素消毒を強めにしてしまうのだ」ということであった。そこで、彼はスライドを作成し、「こういう手順で、こういうところに気をつけてやっていけば、適切な分量で絶対にレジオネラ菌なんか発生しませんから」と説明したのである。その結果、事業者たちは基準を遵守するようになった。区役所職員たちにとっても、行政指導して回るという仕事自体が不要となり、そこに充てていた時間を他の業務に充てることができるようになったのである。

 先輩たちのように「是正すべし」と行政指導を繰り返すだけでも、外形上、「仕事」をしているように見える。しかし、それは「与えられた仕事をこなす」ことをしているだけであり、問題解決につながっていないという意味では、仕事になっていない。自治体職員は、①仕事の目的を問い直すことで、「あるべき姿」(目標)を描きつつ、②それと現実とのギャップ(=問題)を明らかにした上で、③原因分析を行い、問題解決をするという思考を身につけるべきである。

 第3に、「一発で終わる」ことからの脱却である。自治体現場では、個別の取組で終わってしまうことが大変多いからである。たとえば、イベントや講座を催した際、「参加者も集まって、無事うまくいってよかった」で終わってしまい、次につなげられていないのである。

 では、どうすべきなのか。これについてもエピソードで説明したい。神奈川県真鶴町の卜部直也氏の取組である。彼はある時、新しい働き方の開拓をめざして、人材育成講座を開催した。その際、彼はまず、「この人とこの人が組んだら面白いチームになるだろうな」という目星をつけた。そして、講座終了後に実際にチームを組んでもらい、行政の仕事を切り出して一部業務を任せることで彼女らの仕事の調達(=「事業の出口」の手配)をしたのである。さらに、彼女たちの「こんなことをやってみたい」という思いに寄り沿って、国や民間の補助金などの情報を提供して、申請書作成の手伝いをしたり、いろいろな人を紹介してネットワークを広げてもらったりした。このように、自治体職員には、「一発で終わる」ことなく、常に「その次」を考え、寄り添い、バックアップをすることで、実際の成果につなげていくという姿勢が求められる。

 以上のような行動パターンを脱却するためには、上司や周りのアドバイスや研修等への参加を通じた内省的な時間をとることが不可欠である。ところが現在、多くの自治体では、仕事を教える方も教えられる方も多忙を極めていることから、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が十分に機能しなくなっている。また、Off-JTについても、「多忙なので研修に行かせるだけの余裕がない」とされるケースが珍しくない。しかし、多忙を理由に人材育成を後回しにすれば、中長期的に見て自治体組織がジリ貧状態に陥ることは火を見るよりも明らかである。

3. 自治体に求められる二つの本気

3―1仕事(事務・事業・業務)のあり方、仕組み等の見直しに本気で取り組む

 自治体職員は、「重要だが緊急ではない仕事」の後回しをもうやめなければならない。

 まずは、見直しに本気で取り組む必要がある。無意味な仕事や余計な手続きを廃止したり、仕事のあり方を意味あるものに改善したりするための見直しの思考法にはいろいろなものがあるが、特に次の二つを徹底すべきである。

 第1に、「バックキャスト思考」である。実は、自治体職員は、普段仕事をする中で「もっとこういうふうにすればよいのになぁ」と気づいていることが多々ある。しかし、多忙だし、今までのやり方を変えようとすると、その方が時間がかかってしまうため「とりあえず今回は」と流してしまうのである。

 そこで求められるのが「バックキャスト思考」にほかならない。これは、「あるべき姿を定めて、『そこへ近づくために、今、何をすべきか』を考える」という思考法である。特段珍しい思考ではない。誰もが受験の際にはこの思考で取り組んだはずである。ところが、普段仕事をする中では、この思考がすっぽりと欠落してしまいがちなのである。

 「夢なんか実現しっこないと言う人もいるが、実は夢しか実現しない」という言葉がある(野田智義=金井壽宏『リーダーシップの旅』光文社新書、2007年、159頁)。バックキャスト思考でいかない限り、「とりあえず今回は」で全部流れてしまい、何も変えていくことはできないということである。覚悟を決めて、バックキャスト思考で、意義の乏しい事務・事業・業務を廃止・改善すべきである。

 第2に、「長期的な損得勘定思考」である。たとえば、福井県越前市で「経済的理由などにより生活を送るのが苦しい人の早期発見と支援ニーズを把握するために、税金や料金の滞納に対して督促状を送る際にチラシを入れて、5キロのお米を3ヶ月間無償で郵送する」という「越前市わかちあいプロジェクト」を始めようとした際、「そんなことをしてたくさんの手が挙がったら、多忙になって仕事が回らなくなる」という声が一部にあったという。しかし、「早期発見すれば、その分、対応は楽になります。これがもっと深刻な状態にまでなってからの相談となったら、かかる手間が何倍にもなりますよ」と説得し、実現にこぎつけたという。このように「長い目で見て損か得か」を議論し、「みんなで楽になるため」というフレーミングで見直しを進めていくべきである。

 もっとも、見直しを職員個人の自発性に求めるだけでは、実効性は低いだろう。1on1(=1週間か2週間に1回(少なくとも月に1回)、30分程度、上司と部下の間で行われる「部下の成長を支援するための対話の時間」)を導入して、この場を上記思考法に基づく見直しの機会としたり、各課単位で見直しを推進する取組を全庁的に推進したりすることが肝要である。

 なお、蛇足になるが、多忙さの改善のための方策としては、そうした仕事のあり方や仕組みの見直し以外にも、「主体変更」という方法もある。これについては、筆者が委員長を務める大野城市公共サービス改革委員会で行っている「プロセスチェック」という仕組みが参考になる。これは、業務(たとえば保育所等の入所者管理事務)を処理手順単位(個別タスク)に細分化した上で、プロセスごとの難易度や作業時間、職種別の従事割合などを可視化し、プロセスや担い手の見直し、委託、ICTの活用ができないかどうか評価する、というものである。たとえば、難易度が低いタスクを正規職員が行っており、そのために年間数十時間もとられているとすれば、そのタスクを会計年度任用職員に割り当てる、あるいは、委託するといった方法が考えられる。それによって正規職員に余力が生まれることになるのである。

 こうした発想は、係長、課長補佐といった役職の多忙化への対応方策として応用できる。こうした役職では、明確な所掌事務だけでなくそれ以外のさまざまな雑務に追われていることが多いが、その中には「今度の研修に課内の誰に行ってもらうかの調整」のように、難易度の低い仕事もある。そうした仕事は会計年度任用職員等に委ねるべきなのである。そうした改善を行わない限り、係長、課長補佐といった役職に就くことに対する若者の忌避傾向は今後も続かざるを得ないだろう。
 

3―2人材育成に本気で取り組む―人材育成基本条例の制定を!

 人材育成にも本気で取り組まなければならない。

 具体的には、第1に、研修の機会、特に、全国町村会の地域農政未来塾、地域活性化センターの全国地域リーダー養成塾をはじめとする外部研修に行かせたり、研修出向に行かせたりすることが有効である。そうした取組に積極的な町村の一つ、山形県小国町役場を最近訪れる機会があったが、研修を通じて「外の世界」を知った職員たちが横につながる形で、広い視野と前向きな姿勢で明るく組織をけん引していたのが印象的であった。人材育成にきちんと取り組めば、その成果は着実に表れるのである。

 第2に、1on1を通じて部下の成長支援に取り組むべきである。「多忙でそんなことをしている暇はない」という声もあるだろうが、自治体と同等以上に多忙だと思われる民間企業においては、そうした中でも1on1を導入して人材育成に本気で取り組んでいる。すなわち、リクルートマネジメントソリューションズが、2022年1月に全国主要都市圏の企業を対象に実施した「1on1ミーティング導入の実態調査」によれば、全体で67.7%。従業員 3000人以上の企業で75.7%、700~2999人で69.9%、100~699人で57.7%が導入済みであった。これは、①売り手市場の中で、「成長できる職場」でなければ、優秀な人材を確保し、働き続けてもらうことができない、②人手不足が慢性化する中、人材育成を通じて生産性を高めていかないと、企業としての存続・成長を実現できないからである。人材育成への本気度において、自治体は完全に立ち遅れてしまっていることを自覚する必要がある。

 「多忙だから人材育成に取り組めない」というのではお話にならない。組織に余裕がないなら、職員定数を増やしてでも余裕を創り出して人材育成に取り組む必要がある。今、自治体に求められるのは、その覚悟である。

 筆者は、現在、一般財団法人地域活性化センター理事長で、かつ、内閣官房参与(地方創生担当)も務めておられる林﨑理氏と連名で、「人材育成基本条例制定運動」を提唱している。「人材育成基本条例」とは、地域をより良くしていくための自治体職員の「学び、成長する権利」を明記することを中核とし、職員が生き生きと働きながら成長できる職場環境を整備することを目的とする条例である。たとえば、同条例で人材育成をできるだけの組織的余裕(職員数)を確保すること、毎年度外部研修を受講させる人数を「研修等定数」として明記することなどが考えられる。

 全国の自治体で、人材育成基本条例の制定および「人材育成(自治体)宣言」を行い、その方針に沿った自治体運営の実現に取り組んでいただくことを強く期待したい。
 

嶋田 暁文氏顔写真嶋田 暁文(しまだ あきふみ)
九州大学大学院法学研究院教授

九州大学大学院法学研究院教授。専門は行政学、地方自治論。1973年島根県安来市生まれ。中央大学大学院法学研究科単位取得退学。博士(政治学)。2004年4月に九州大学に助教授として着任し、2018年4月より現職。主な著書として、『ポストモダンの行政学―複雑性・多様性とガバナンス』(有斐閣・2024年)、『みんなが幸せになるための公務員の働き方』(学芸出版社・2014年)など。自治体学会副理事長、日本行政学会年報委員長など、学界の中心的役割を担うとともに、農水省「新しい農村政策の在り方に関する検討会」委員、福津市「共働推進会議」会長、大野城市「公共サービス改革委員会」委員長等を歴任し、現場との関わりも多い。