
▲紅葉する秋の立山連峰。ロープウェイが観光客を運ぶ。(富山県立山町)
(写真提供:立山町)
ジャーナリスト 人羅 格(第3337号 令和7年10月20日)
富山県立山町。町役場の敷地にあるコンビニ「ローソン」の店内は仕切りこそないが、ふたつの空間に分かれている。通常のコンビニの中に「書店」が併設されている。
8月の暑い日、冷房の効いた店内に入った。実用書、児童書、コミック、郷土関係…。ジャンル別に多くの本が棚に並ぶ。まちの本屋さんの光景である。
ネットの浸透や通販の発達で、書店は減少している。出版文化産業振興財団によると、域内に書店がない自治体は今年5月時点で498団体と市区町村の3割近くに及ぶ。うち472団体は町村である。
立山町も2015年から無書店となり、町民から「書店がほしい」と声が寄せられていた。誘致を試みたが、難航した。
機会は思わぬところから巡ってきた。役場の敷地にコンビニの設置を計画していたところ、ローソンから「書店もできますよ」と提案があった。
ローソンは「LAWSON マチの本屋さん」という、書店併設型店のプロジェクトを進めている(現在16店)。立山町の負担で役場敷地内に店舗を建設することを要件とする連携協定をローソン側と結び、24年春に開店した。「書店」がつなぎ役になった。
町側の要望で、児童書を多くそろえている。事業に携わってきた町総務課の中川大輔さん(51)は「ネット購入に慣れないお年寄りにも好評です」と手応えを語る。コンビニに来た人も、ぶらりと本を見て歩ける。
自治体が書店の確保に動いたケースは他にもある。福井県敦賀市は、民間に運営を委託する公設民営の書店を複合施設に置き、委託費やテナント料を市が負担している。
「書店があること」を自治体の基礎的な要素と捉え、開設に関与していくことは見識だと思う。図書館に加え、書店で多様な本にふれる経験は、とりわけこどもたちに大切であろう。さまざまな方法をぜひ、試みてほしい。