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地域農業を支える政策の全体像の可視化に向けて

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年6月23日更新

総合地球環境学研究所プログラムディレクター 荘林 幹太郎(第3323号 令和7年6月23日)

 近年、コメの価格高騰を契機に食料安全保障への関心が急速に高まっている。その影響で、コメの流通に関する議論にとどまらず、日本の持続可能な農業生産の確保に向けた議論も活発化している。この流れの中で、「直接支払」という言葉の使用頻度が増加している。

 直接支払とは、原理的には政府が農家に対して直接的に財政支援を行う仕組みと定義され、英語の「Direct Payments」の直訳である。農業を支援する方法にはいくつか種類があり、農産物価格を維持する「消費者負担型」と、納税者が財政的に支える「納税者負担型」に分類される。直接支払は後者の「納税者負担型」に属し、先進諸国では1990年代半ばから農政の中心的な手法の一つとなっている。

 しかし、実際にどの制度が直接支払と呼ばれるかは国や地域によって異なる。例えば、欧州連合(EU)では、直接支払という名称は基本的に所得を支援する政策に限定されており原理的には直接支払に分類される「環境支払」や「条件不利地域支払(日本の中山間地域等直接支払に相当)」などは、EUの制度では直接支払とは呼ばれない。一方で、日本では、日本型直接支払に加えて畑作や水田の利活用を支える制度に直接支払という名称が付与されているものの、それ以外にも原理的な意味合いでの直接支払は存在する。さらに、原理的な定義には当てはまらないものの、実質的に直接支払と同様の役割を果たす財政支援策も多くある。例えば、灌漑(かんがい)施設の維持管理や土地改良事業への支援は、多面的機能支払と目的の一部を共有しているため、実質的に直接支払と同じ効果を持つ。

 このように、農業を支援する財政措置には多様な種類があり、各制度が複雑に絡み合っている。また、財政負担者の組み合わせも制度ごとに異なり、国単独で負担するもの、国と都道府県が協力するもの、さらに市町村も含めた三者が負担するものなど、複数のパターンが存在する。こうした複雑な構造が、地域農業の持続性を支える支援の全体像を把握することを困難にしている。

 直接支払の最大の利点は、政策目的に応じて支援対象を絞り、効果的な施策を実施できる点にある。地域ごとに農業の特性やその意義が異なるため、直接支払の仕組みを各地域の状況に応じて柔軟に活用することが重要となる。そのため、地域別のデータベースを構築し、各支援制度の適用状況を可視化することが急務である。これにより、食料安全保障のみならず、農業が有する多様な機能の発揮を促進し、国・都道府県・市町村それぞれの役割を明確にする議論を深化させることが可能となると考えるからである。