明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3317号 令和7年4月21日)
最近、「農村問題とは何か」という議論をする機会が増えている。
そのなかで思うのは、我が国の農村問題には3つの段階があるということである。最初は「課題地域問題」である。高度成長期には地域間格差が拡大し、所得形成や生活条件の点で「農村は課題(問題)がある地域」とされた。1961年の農業基本法も翌年の全国総合開発計画もそれを意識して作られ、格差是正のため、農村の都市化が追求された。
しかし、経済が成熟する段階になると、「農村の価値」が国民レベルで意識されるようになる。「農業白書」に「多面的な農村の役割」という記載が出現したのは1971年度版からである。その頃から、農村には美しい景観や地域資源という価値があり、その持続化が必要だという議論が広がり始める。そうした価値の基盤となる農業等の地域産業、地域社会が、産業的停滞や人口減少により持続性が低下していることを問題視するというスタンスに変化する。「課題地域問題」から「価値地域問題」への転換と言える。そこでは、都市化ではなく、むしろ多様な個性を持つ農村に向けて、内発的に発展することが追求される。
そして、現在のグローバリゼーションのもとでは、都市と農村の分断が進む。このメカニズムを論じる紙幅はないが、最近、「農村たたみ論」の登場頻度が増えているのはこれが背景となっている。世界規模で競争するグローバル経済圏にとっては、農村を含む地方部が不要な状況が生まれつつある。「隔絶地域問題」の発現である。
この問題が、「課題地域問題」と異なるのは、都市化により解決が期待できるものではないことである。むしろ、分断された領域をつなげることが目標となる。経済だけではなく、社会、防災、文化を含めて、都市と農村が安定と安心を共に創りあげる「都市農村共創社会」が、対応戦略として位置付くであろう。
農村問題の展開はこのように整理できる。しかし、実は3つの農村問題は転換というよりも、積み残されたものが重なり、比重を変化させながら、現在に至っていると考えられる。つまり、現代の農村では「課題地域」「価値地域」「隔絶地域」という3つの問題が重層化している。その結果、「格差是正」「内発的発展」「都市農村共創」の同時解決が求められている。
このように農村政策はいまや、農村住民のためにだけでなく、すべての国民と国土のためにある。それが、貧弱なもので良いはずがない。近年、農政における農村政策の混迷が言われるなかで、根底からの再生が必要な理由である。