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森林資源とカーボン・クレジット

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年3月24日更新

早稲田大学政治経済学術院教授 稲継 裕昭(第3314号 令和7年3月24日)

 ​地球温暖化と気候変動は差し迫った問題であり、カーボン・クレジットは、温室効果ガス(GHG)の排出削減を促進するための経済的手段の1つとして注目されている。政府が企業ごとにGHGの排出枠を割り当て、その枠内での排出を許可する一方、枠を超えた排出については他からクレジットを購入して、相殺(オフセット)するという仕組みである。逆に、GHGを削減、吸収、貯蔵した量に応じて認証を得たクレジットを発行し、取引することができる。

 森林管理でもクレジットの発行が認められている。森林伐採防止、再植林、長期的な炭素蓄積を促進する持続的森林管理が対象で、カリフォルニア州や米国北東部地域、ニュージーランド等で森林プロジェクトが認められている。

 奈良県は、令和7年3月「奈良県脱炭素戦略」で、2050年カーボンニュートラルをめざす目標を設定。目標達成のためには、温室効果ガス排出量削減対策だけでなく、さらなる森林吸収源対策(適切な森林管理)も必要で、J-クレジット(環境省、経済産業省、農林水産省運営の制度)活用・販売促進に資する取組を進める。高知県や新潟県と同様の地域版J-クレジットだ。

 奈良県川上村は吉野川(紀の川)の源流に位置し、面積269km²のうちの95%が森林だ。吉野川から水が供給され森林面積が0%の田原本町と令和4年2月、森林整備等の実施に関する連携協定を結んだ。田原本町に交付される森林環境譲与税を活用して、川上村が所有する森林の一部を整備。川上村の森林整備実施で創出されるCO2吸収量を、田原本町から排出されるCO2の一部と相殺(カーボンオフセット)する。

 ただ、田原本町による整備地域は、川上村の総森林面積の1%に満たない。川上村には、まだまだ多くの可能性がある。J-クレジット活用の検討を進めつつあるが、民有林は実際の作業とJ-クレジットに係る作業部分が釣り合わず難しい。まずは村が所有する原生林、吉野川源流-水源地の森について今後検討が進められるという。

 クレジット発行に要求される持続的森林経営、CO2吸収量の計測、プロジェクト運営のための長期人材確保等は、小規模自治体や中小規模森林経営者の負担が大きい。だが、例えば吸収量計測は、ドローンや人工衛星を利用した簡便な方法が開発されており改善が期待される。残る問題は、運用のノウハウの公開や運用支援等の制度的解決だろう。


参考Webサイト

「奈良県カーボン・クレジット制度の創設について」(知事定例記者会見資料、令和7年1月31日)
https://www.pref.nara.jp/secure/318842/shiryou.pdf

農林水産省 農林水産分野におけるカーボン・クレジットの拡大に向けて 令和6年3月
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/006_05_00.pdf

林野庁森林吸収系J-クレジット事例集
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/attach/pdf/J-credit-57.pdf

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