國學院大學 観光まちづくり学部 教授 梅川 智也(第3309号 令和7年2月10日)
国は2018年から「国際観光旅客税(出国税)」という観光振興の安定財源を確保しているのに対し、地方の観光財源はいつも脆弱かつ不安定だ。市町村税で観光振興を目的にしているは入湯税だけである。ただ、全国での徴収額は約200数十億円。町村では465団体、約37億、1町村あたりにすると平均790万程度に過ぎない。
コロナ禍後、想定以上に好調なインバウンド需要等を導入理由として、ここ数年、改めて重要な観光財源として注目されているのが「宿泊税」だ。2002年の東京都以降、2025年1月現在、1都2府1県、8市町が導入しており、今後、相次いで導入される見込みである。
使途を明確にせずに導入を進めるのは安易であるとの批判もある。確かに財源だけが先に来るのは本末転倒であろう。観光地域の振興、活性化には、まずは地域がめざす将来ビジョンが不可欠で、それを地域全体で取り組む舵取役としての推進組織(主にDMO)があり、その組織の安定的、機動的な活動とビジョンに位置づけられた各種事業の実現を担保するのが「財源」だ。つまり、ビジョン、組織、財源は三位一体でなければならない。
日本の宿泊税は「定額制」、「段階的定額制」、「定率制」の3種類に分類される。世界的にみれば定率性が常識であるが、日本では唯一、倶知安町だけの採用に留まっている。今後、沖縄県でも定率性が採用されれば多少世界常識に近づくものと思われるが、どうも入湯税のイメージが強いのか、定額制、段階的定額制が多数を占める。その背景には1泊2食という日本独特の宿泊料金体系にあり、飲食費を除く純粋な宿泊料を算出することが難しい事情がある。定額制の課題は宿泊単価ではなく、人数に依存せざるを得ないことだ。“量から質へ”という観光振興の方向性が示されているにもかかわらず、定額制は宿泊料に応じて税収が増加する仕組みになっていない。今後はより公平な定率制の導入が期待される。ちなみに全国知事会は宿泊税導入を、さらに経済同友会は定率性の導入を提言している。
宿泊税の最大の利点は、事業者ではなく宿泊者に負担を求めることだ。地元住民が宿泊しない限り、インバウンドを含めた“域外からの宿泊者”が負担することになる。宿泊者を受け入れる自治体はさまざまな受入環境整備を行い、相応の行政サービスも提供しているはずで、そうした予算をすべて一般財源から支出することには限界がある。受益者が応分の負担をするのが相応であろう。しかも宿泊税は宿泊者が増えれば増えるほど税収が拡大し、負担者に対する還元や地域の魅力づくりにも活用できるプラスの循環を生むシステムだ。
特別徴収義務者である宿泊事業者の反対により、未だ前向きに進まない地域も現実には少なくない。これからの観光地域を支える最低限の財源として「宿泊税」を前向きに捉えてみてはどうだろう。