東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3308号 令和7年2月3日)
受験シーズン到来である。今の時代、18歳人口の約6割が大学に進学する。しかし人口減少の影響もあり、全国の私立大学の約6割が定員割れの状態にある。多くの大学・学部はオープンキャンパスや高校での模擬授業などを通じて、学生獲得に奔走する。この状況は、人口減少の中で移住者を呼び込もうと対策を講じる自治体とやや似たところがある。
魅力ある地域づくりで移住者を増やす自治体があるように、独自の戦略を打ち出して、意欲の高い学生を集める大学も存在する。たとえば、国際教養大学(秋田市)はグローバル人材の育成を掲げ、講義は英語で実施、海外との連携はもちろん、事業者や地域コミュニティと協力しながら社会課題解決に取り組むなど、独自のプログラムで学生を集める。
いまや大学の役割は、専門領域の研究・教育にとどまらず、多様な人々や組織との交流や連携を通じて社会課題に取り組むことへと広がりをみせる。地域課題の解決にむけて、大学生と地域住民で取り組む実習・研修も増えてきた。若い世代に対して、「何を学べるか」だけでなく、「どう学べるか」「どんな機会が提供できるか」を提示することがとても大切になっている。
学生の意識も変化していると感じる。新たな出会いや経験、学びそのものを純粋に楽しむ学生が増えており、留学を志す学生のほか、社会課題の解決にむけて休学し、長期インターンシップや地域おこし協力隊として活動する若者も増えている。優秀な成績をあげて大手企業に就職するのがよいという外部の価値判断をうのみにせず、自分が何をやりたいのかを模索し、自己実現に向けて進む道を考える学生は頼もしい。
その一方で、自分が何をしたいのか分からないという学生もいる。幸福度調査などの結果から、日本の若者は欧米各国と比較して、自己肯定感が低い傾向にあるという指摘もある。
経済成長至上主義で、頑張る時代から、一人ひとりの多様性を尊重した幸福実現をめざす社会へと、世の中の価値観も変わってきた。
多様な出会いや学びの機会を通じて、一人ひとりが自分を知り、夢や希望に向けて挑戦できる環境をどのように用意できるか。人口減少時代にあって、若者を集めようとするのではなく、地域で自治体や大学が連携して、若い世代を応援できる場を丁寧に創っていくことが大切だと感じる。