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凍える寒さに響く夜神楽

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年1月27日更新

フリーアナウンサー 青山 佳世(第3307号 令和7年1月27日)

 神話のふるさととして知られる宮崎県高千穂町、紅葉の季節の高千穂峡は鮮やかな赤 黄色。そしてよく手入れされた杉の緑が実に見事なコントラストを描き錦絵のようです。天照大御神を御神体とする天岩戸神社東本宮、天岩戸を御神体とする西本宮、歴史を物語る巨大な杉の木々が天を貫きます。高千穂町では11月後半から2月前半にかけて各集落ごとに氏神様に夜神楽が奉納されます。昨年12月7日、歳(とし)神社を氏神様とする岩戸五ヶ村地区で5年ぶりの夜神楽が奉納されると聞き、偶然高千穂に居合わせた私は前日にお電話して神楽宿(宿泊する宿ではなくて

 夜神楽を奉納する場所のこと)へ駆けつけました。コロナで中止になって以来、夜神楽を舞い設えの準備をする奉仕者“ほしゃどん”の担い手不足で再開できるかどうか心配もありましたが、若手のほしゃどんたちは「やりましょう」と声を上げたそうです。33番の神楽を舞いながら“ほしゃどん”は自分の幼い息子に、そしてクライマックスに近づく演目ではベテランの“ほしゃどん”が一緒に舞う若手たちに教え伝える姿が見られ、本番も緊張感ある大切な伝統の継承の場となっていました。“ほしゃどん”たちも一晩中舞い唄い続け声も枯れていましたが、5年ぶりの夜神楽に感無量!!実に清々しい笑顔でした。駆け込みの私が、5年ぶりの貴重な一夜の夜神楽を拝見できて感謝感激でした。

 各集落ごとに神楽の演目の順番も舞も違うとのこと。今は観光客に向けて毎日高千穂神社で1時間の夜神楽を見ることができるようになっています。

 高千穂峡へ向かう丘は棚田となって整然と段々に続き、一角では牛がのどかに草を食んでいます。暮らしの循環が見えてきます。

 谷にかかる橋の中に鉄橋が見えました。一際高い場所にあって、そこには普通の鉄道とは違う不思議なデザインの列車が走っています。

 2008年に廃線になった高千穂鉄道が通っていた高千穂鉄橋、運行当時は日本一高い鉄橋だったそうです。JR高千穂線廃線後、高千穂鉄道として運行を続けましたが 2005年の台風14号で3つの橋が倒壊し、2008年に鉄道事業を断念しました。しかし、地元やファンの方等の高千穂鉄道“愛”に溢れる人たちがなんとしても線路も鉄橋も鉄橋から眺める風景も谷から見上げる鉄橋の風景も後世に生きたまま残したいと高千穂あまてらす鉄道を作り、鉄道事業ではなく公園内にある「遊具」としての列車グランドスーパーカートを走らせています。鉄橋からの眺めは公園と呼ぶには勿体無い!他では見ることのできない超一流の絶景です。

 高千穂町は椎原地域とともに、2015年に世界農業遺産へ認定されました。自然や農業も含めた営みの風景、神楽等の伝統の継承 それを大切に思う地元の皆さんとエールを送る大勢のファンの皆さんの力の結晶を短い滞在で感じることができました。