ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 食農学類で学んだこと

食農学類で学んだこと

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年12月16日更新

東京大学・福島大学名誉教授​ 生源寺 眞一(第3304号 令和6年12月16日)

​ 昨年3月で6年間勤務した福島大学からリタイアとなった。35年9カ月の大学教員生活も終了した。いずれも農学系の教員だったが、タイプの異なる東京大学、名古屋大学、福島大学だったから、印象に残っている点にも違いがある。この機会に福島大学食農学類で大切さを自覚したことをお伝えしたい。

 新設の食農学類では実践性の重視を教育の基本理念としている。基本理念に沿ってカリキュラムも組まれていて、その一環として入学直後の農場実習を必修科目とした。農場実習と述べたが、水田や果樹園の作業だけでなく、森林に足を運んでの観察があり、食品科学の領域でも安全性の確認などが行われている。1年生の前期・後期を通じて、全教員が分担して実習に取り組んでおり、学生の学びの特色を実感している。ひとことで言えば、農や食の分野では「わかる」だけではだめで、「できる」ことが大切だとの実感である。私自身がそうだったが、教員の皆さんも「できる」ことの意義を再認識されたと思う。そのうえで「わかる」ことを深める専門的なカリキュラムに進んでいく。

 食農学類は専任教員38名の小さな学部である。けれども、だからこそ可能なこともある。教員が互いによく知ることができるのである。名前と顔の認識だけではない。どの分野でどんな研究に取り組んでいるかについても、さほど時間をかけることなく理解することになる。教員は全国各地から着任しており、卒業大学の立地にも北海道から鹿児島までの広がりがある。そんななかでも相互理解がベースとなって、かなりの数の共同研究が生まれている。

 福島大学食農学類の特色を振り返ったわけだが、町村の役場に通じる面があるように思う。各種の政策の現場を担当している点では、政策が「わかる」だけではなく、必要な手段を実行「できる」ことが求められていると言ってよい。また、町村役場の職員は互いに顔見知りであり、所属する部署も認識されているから、連携した共同作業の基盤が存在する。これを活かすことも大切だ。