作新学院大学名誉教授 橋立 達夫(第3297号 令和6年10月14日)
コロナ禍のもと、3~4年間にわたって対面授業の経験を奪われたまま学校生活を通り抜けてきた若者が役場職員になる。彼らはコミュニケーションが苦手といわれるが、逆に密接なコミュニケーションを渇望しているようにも見える世代である。彼らが地域コミュニティの中に溶け込むことで、地域と職員の双方が力をつけることを考えられないか。
役場職員を地域と結びつける方策としては、「地域担当職員制度」がある。現在、全国の町村の約1/4が「地域担当職員制度」を持っている。また支所や公民館、地区公民館に職員を配置し、地域コミュニティ全体の活性化に資する役割を持たせることもできる。
しかし、制度的に職員を地域に張り付けることが果たして良いのか。職員は住民同士のゴタゴタやモラハラに巻き込まれたくないと思うかもしれない。また配置される職員の関わり方によって地域への効果は左右される。任期の問題もある。
私は役場職員が、一個人として地域の自治会活動やその他のボランティア活動に自発的に参加することを奨励して行くべきだと考える。職員は業務としてではなく、一個人として自らの意思で参加する。たとえば地域の祭りに参加することから始めれば良い。職員が地域の高齢者に多くのことを学び、また大切にされることで、地域での互いの信頼関係が築かれて行く。このことは役場の将来にとって大きな力になるであろう。職員が身をもって生活者の側から見た地域の課題を把握する経験を持つことで、福祉、防災、まちづくりといった総合的対策を構想できる職員が育って行くことを期待したい。
地域にとっても、活動者の多くが苦手とする事務処理を引き受けてくれる人がいれば、それだけで住民の活動余力は確実に拡大する。さらに職員が仕事の中で培った、他市町村の先進的な活動など幅広い分野の知識や人間関係を取り入れることもできる。そして何よりも地域の中に内発的で持続的な活動の態勢が生まれる。住民との距離が近い小さな自治体こそ、こうした連携を生み出す可能性を持っているのではないか。ただし、職員の地域活動の時間確保のため、一層の「働き方改革」が必要であるが・・・・。