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なぜ、老舗温泉地に若者が集まるのか? ―「レトロな世界観」に浸る楽しみ

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年10月7日更新

2023年10月に完成した新たなシンボル「温泉門」
2023年10月に完成した新たなシンボル「温泉門」
(写真提供:梅川 智也氏)


國學院大學 観光まちづくり学部 教授 梅川 智也(第3296号 令和6年10月7日)

​ 毎年、夏期に学生を草津温泉(草津町)に連れて行くのだが、かつての旧態依然とした温泉地とは別世界、若い人達で溢れかえっている。バブル崩壊以降、長く低迷を続けていた温泉地になぜ、若者が集まるようになったのか。勿論、自然にそうなったわけではなく、町長を先頭に官民が日々努力してきた結果である。この10年ほどの間で、これほど大きく変貌を遂げた温泉地は全国的に例をみない。その要因を私見ながら2点、考察してみたい。

 一つ目は「インスタとともに」である。Instagramは2010年に米国で誕生、日本語アカウントの開設は2014年となる。草津温泉で23年間放置されていたシンボル「湯畑」周辺の改革が始まり、御座之湯、湯路広場が誕生する“まちづくり=景色づくり”が始まった年と見事に重なる。レトロな町並み整備がインスタによって拡散されていく、いわば景観整備というハードとインスタの普及というソフトのタイミングがぴったりと符合した。観光地選択をハッシュタグ検索で行う若者にとって、インスタ映えする草津温泉がまさにフィットしたわけだ。近年では温泉街の至るところでライトアップが行われ、特に湯畑の湯煙りは幻想的な雰囲気を醸し出す。かつては真っ暗で誰も歩いていなかった夜の温泉街に、今では若者を中心に人が溢れており、ナイトタイムエコノミーとしても大成功している。

 二つ目は「世界観の演出」である。テーマパーク型とでも言うべきかもしれない。草津温泉の玄関口は、バスターミナルである。そこから湯畑に至る坂道を下ると、そこからは草津のシンボル・湯畑を中心とした全く異なる世界観のある空間が広がる。ディズニーランドの入口からワールドバザールを通ったその先にシンデレラ城というディズニー独特の世界が広がるのとほぼ同様の空間演出である。そして「西の河原公園」に至る西の河原通りは、雷門から浅草寺に至る仲見世通りのように門前市をなし、景観計画に基づく町並み整備によって若者好みのレトロな祝祭空間となっている。そして近年新たな拠点として裏草津・地蔵の湯周辺も洒落た空間として整備され、またスキー場もパレスゴンドラやジップライン、大ブランコなどを擁するアドベンチャー空間が広がっている。これらはディズニーランドの7つの「テーマランド」のように、さまざまな世界観が楽しめる空間演出が施され、TDL育ちの若者には既視感とともに「レトロな世界観」に浸れる大きな魅力となっているのではないか。

 “まちづくりは景色づくり”として温泉街全体の景観整備と魅力ある施設設備、そしてそれを可能にした大胆な財政改革という町長以下関係者の見えない努力が背景にあることはしっかりと理解しておきたい。