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地域おこし協力隊と新規就農者育成

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年9月9日更新

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3293号 令和6年9月9日)

 地域おこし協力隊を新規就農者の確保・育成事業に活用できると私が気付いたのは、2018年。山口県萩市で、隊員のひとりがハウストマト栽培を任務にしているのに出会ったときだった。

 調べてみると、その4年前には、すでに島根県邑南町が地域おこし協力隊を活用した農業研修制度をスタート。新規就農希望者を「おーなんアグサポ隊」と名付けて募集し、合同会社「アグリサポートおーなん」の研修農場での研修体制を整えていた。

 他にも、鳥取県日南町、広島県三次市、北海道新冠町、岩手県遠野市など、自治体が地域おこし協力隊を活用して地域農業の担い手を確保・育成するケースは増えており、新規就農支援ルートのひとつとしての認知は徐々に広がっているようだ。

 農水省の農業次世代人材投資事業は、専業就農が前提で、就農しなかった場合は資金を返還しなければならない。地域おこし協力隊の場合、就農しなくても資金返還の義務はなく、専業就農か半農半X型就農かも、自ら選択できる自由がある。

 いわば、地域おこし協力隊としての農業研修期間は、地域での暮らしのリアルを経験してもらうと同時に、本人の農業への適性を判断する猶予期間にもなる。専業就農をめざすなら、任期終了後に農業次世代人材投資事業を活用することも可能だ。

 新規就農の多様性や裾野を広げるうえでも、もっと取り組む自治体が増えるかと思いきや、筆者の予想ほどは広がりを見せていない。理由として、行政の農林部署やJAなどで、まだまだ新規就農ルートとしての認知度が低いこともありそうだが、一方で「就農率が低いのでは」という懸念の声も聞こえてくる。

 応募のハードルが低い分だけ、たしかに集まる人材は玉石混淆かもしれない。ただし、就農しなくても地域人材として活躍する可能性もある。また、研修から就農への道筋を「見える化」し、育成プログラムを充実させることで、就農率を上げることも可能ではないだろうか。

 その点で、行政とJAとの連携も重要な要素だ。実際、前出の先進地でも、JAと行政が連携して実践的な研修プログラムを組み、任期後スムーズに就農につなぐ環境を整えているケースもある。後継者確保は、行政とJA共通の課題。まずは話し合いの場を設けてはどうだろうか。