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ローカルコモンズを創り直す

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年8月12日更新

一般社団法人 持続可能な地域社会総合研究所 所長 藤山 浩(第3290号 令和6年8月12日)

 地球温暖化の明らかな進行、未曽有の経済格差の広がり、社会的な孤立と分断。国内外を問わず、環境も経済も社会も八方塞がりに見えるこの2020年代、解決の道はあるのだろうか。だが、現場を歩くと、人々が知恵を絞り、力を合わせてこの危機を乗り越えようとする挑戦がさまざまな地域で生まれている。

 例えば、農業分野では、改めて法人を立ち上げ、農地の共同管理を進めようとする動きがある。公共交通網が崩れ始めている中、小地域で共同の車両を運行する仕組みが増えている。「小さな拠点」や「地域経営会社」のように、商業や福祉など分野を横断した複合的な拠点や組織づくりも始まっている。こども食堂をはじめとする地域の食の広場づくりも広がっている。そして、再生可能エネルギーについても、森林・農地・河川・街区等をつないだ地域の共同システムづくりが注目される。

 こうした分野と地域を横断した多様な危機対応策の共通軸として浮かび上がるものは、地域住民による共同管理の仕組み、すなわち「ローカルコモンズ」の再構築に他ならない。

 半世紀以上前、「コモンズの悲劇」という考え方が示され、私的所有に基づく自由競争が望ましいとされてきた。しかし、もう地球上には、競争して奪い取る環境的余裕は残っていない。2009年に女性として初めてノーベル経済学賞を受けたオストロムは、世界中の共有資源管理の事例データベースを構築し、失敗と成功を分かつ8つの設計原理を明らかにした。学問のうえでも、限られた資源を共同で賢く使う「コモンズ」の考え方が再評価されている。

 私は、これからの時代、日常的な暮らしを支える数百人から数千人の生活圏を来るべき循環型社会の一番の基礎単位である「循環自治区」と設定し、「ローカルコモンズ」に基づく共同管理を、農林業・交通・エネルギー・福祉・子育て等に広げていきたいと考えている。それが、環境保全、生計保障、生活連帯を同時に成り立たせる文明的基盤となるはずだ。