作新学院大学名誉教授 橋立 達夫(第3284号 令和6年6月24日)
全国的に人口減少、高齢化が進む中、地方の商店の撤退、商店街の衰退、ローカルバス路線の廃止などにより、「買い物困難地域」が広がっている。とくに高齢者は、運転免許の返納などもあって、中心都市への移動も困難になり、いわゆる「買い物難民」になる可能性が高い。
この問題に対処するために、コンパクトシティ論に連なる「買い物困難な地域の住民は行財政上の負担になるので都市の中心部に移住すべし」という考えもある。しかし机上の統計的な数値としての住民ではなく、一人ひとりが地域に根差した生活をしていることを考慮すれば、買い物の可能な生活環境を整えることで、地域での生活条件を満たすことを真剣に考えるべきではないか。
対策として「巡回型商業システム」を提案したい。固定的な商店ではなく、移動販売車等による地域訪問型商店の活用である。家庭用冷凍冷蔵庫が100%近く普及し、食品の保存技術も発達した今日、必ずしも毎日買い物をする必要はない。歩くことのできる範囲に、週ないし十日に一度、移動販売車が立ち寄る場所を設定する。「○○(地名、愛称など)金曜市場」、「△△七日市場」など、開催日時が分かるような名をつけたスペースができれば、そこが地域の「小さな拠点」になる。必要な設備は、休憩と軽飲食ができる場所、トイレ、水道と電気である。学校跡地のように広い土地であれば、駐車場とイベントスペースとして利用することにより、利用者拡大を図ることもできる。移動販売車に加えて、多様なキッチンカーを交替で巡回させられれば、バラエティに富む食事の楽しみもできる。行政や金融機関の出張窓口も有効であろう。ドローンによる遠隔地配送の会員制度を付加できればさらに良い。
これら移動販売車等の定期巡回を可能にするためには、経営組織を、各町村もしくは地域の中心都市に設立する必要がある。全国の基礎自治体の4割以上に、スモールビジネスの起業に関する助成制度が用意されている。全国的に移動販売車の起業支援を行う企業もすでにある。災害時の即応支援対策としても有効な「巡回型商業システム」の起業を、地域資本と行政の連携により促進できないか。