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「ごちゃまぜ」の効用

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年4月15日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3277号 令和6年4月15日)

 「ごちゃまぜ」という言葉がある。辞書によれば、「いろいろな物が無秩序に入りまじっていること。また、そのさま」(デジタル大辞泉)とある。「無秩序」の表現が示すように、望ましい状況を示す言葉ではなく、「ごちゃまぜにしないように」という否定的な文脈で使われることも多い。

 しかし、最近では、むしろ目指すべき状態として、「ごちゃまぜ」という表現が聞こえてくる。竹本鉄雄・雄谷良成『ソーシャルイノベーション-社会福祉法人佛子園が「ごちゃまぜ」で挑む地方創生』(ダイヤモンド社)や濱野将行『ごちゃまぜで社会は変えられる-地域づくりとビジネスの話』(クリエイツかもがわ)では、本のタイトルにもなっている。

 これらの著書では、「時には若い力が必要だし、時には専門職の人の力が必要だし。時には子どもの、働き世代の、高齢者の、障がいのある方の力が必要です」(濱野著)と、いりまじっていることが、福祉やビジネス、最終的には地域社会全体のあり方として語られている。

 筆者も、農山漁村の現場を歩くとき、そのような「ごちゃまぜ」に出会うことがある。多くの場合、公民館やカフェ、ゲストハウスなどの交流の拠点があり、そこに多彩な人々が、気兼ねなく訪れ、対話し、時には新しいアクションの出発点となっている。筆者が、しばしば「にぎやかな過疎」と称する取組の「にぎやか」という印象は、このような場から溢れ出ていることが多い。

 この「ごちゃまぜ」は、各地で課題となっている関係人口の呼び込みを考えるときにも重要である。関係人口が地域住民とつながるときに必要な条件は、地域の中で、世代が異なる住民やいろいろな職業の人々がまじり合っていることである。最初から、若い世代と中高年世代の交流もできないような地域が、外からくる人々とつながることを目指すのは無理な話ではないだろうか。

 今までは、ごちゃまぜにならないように、整然と分けることが指向されてきた。その方が効率的だと思われていたからであろう。しかし、今では、むしろ地域の中にあえてごちゃまぜの場を作ることが重要である。そのことにより、新しい価値が生まれ、そして活動や組織の持続性が保たれるからである。