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全面的崩壊を防ぐ強靱な小地域づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年4月8日

一般社団法人 持続可能な地域社会総合研究所 所長 藤山 浩(第3276号 令和6年4月8日)

 夏目漱石は、日露戦争後の一等国になったと浮かれ気味な時代を背景にした作品「三四郎」の中で、これから日本は発展するという主人公の思い込みに、「亡びるね」とある男に警句を吐かせている。

 現代の日本においても、まだまだ豊かだ、大丈夫だと思い込んでいる人々は多いように思う。だが、冷静に私たちを取り巻く世界の状況を考えると、実は同時多発的な持続性危機が進行している。

 地球温暖化は確実に進行し、生物多様性の喪失とも連動している。そして、戦争、紛争の激化は、世界的な食料やエネルギー供給に暗い影を投げかけている。そうした中、日本の経済力は低下し、農業の担い手は放置すると今後10年でほぼ半減する。怖ろしいことは、これらの持続性危機が結び付き、相互補強的に深刻化するサイクルが始まっていることだ。さらに日本では、能登半島地震をはるかに上回る規模の首都直下地震や南海トラフ地震が迫っている。これらの危機と災害が最悪のタイミングで連動すると、社会や経済の全面的崩壊へとつながりかねない。先進国の中で一番食料自給率が低い日本では、食料が不足し、飢えが広がる可能性さえ否定できない。

 2015年にフランスで出版され、ベストセラーとなった「崩壊学」という本は、今や地球温暖化など文明の随所に全面的崩壊の兆候が現れていることを指摘し、その防止策として「地域的なレジリエンス」を作り出すことを求めている。つまり、地球規模の「将棋倒し」を防ぐために、行き過ぎた「大規模・集中・グローバル」システムから一定程度「切断」されても生き残り得る、強靱な小地域を創っていく必要があると主張しているのだ。

 これから必ず循環型社会へと進化する時代、強靱な小地域づくりは、非常時対応だけでなく、確かな未来戦略としても欠かせない。今までの間違った「選択と集中」路線で切り捨てられてきた緑豊かな中山間地域にこそ、強靱な小地域づくりを先行できる可能性は宿っているはずだ。