早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3275号 令和6年4月1日)
この欄でたびたび取り上げてきた川上村に、また一つ素晴らしい話題が生まれた。この村は地域おこし協力隊の招致と育成にも力を入れていて、この2月村の中心にあるホールで、その報告会を開催、多くの村民が参加し、総務省や県から、そして小生も駆け付けた。その日、村に入ってしばらくすると、道路の対岸に大きな木造の新しい建物が目に入った。これこそ現栗山村長が就任当初から唱えてきた義務教育9年間の一貫校、「かわかみ源流学園」の雄姿であった。
川上村は銘木を育ててきた吉野林業の発祥の地である。200年を超える杉の人工林が山々を覆うが、残念ながら林業にはかつての勢いはない。ダム建設を受け入れて水源地の村づくりに舵を切って、第5次の総合計画では「子育てプラン」を大きな項目とし、保小中の一貫教育の推進が掲げられた。そしてこの3月に、すべて川上村産の木材を使用した、3階建ての本格的な木造校舎が竣工したのである。
かわかみ源流学園校舎の隣には「やまぶき保育園」が建てられ、両者をつなぐオープンな「かわかみテラス」と子育ての相談の拠点子どもセンターが設けられていることが素晴らしい。テラスは休日にも開放され、子供たちばかりではなく多世代の交流に役立つに違いない。敷地面積は約11700m²、延床面積は約4400m²である。
これらの総工費は25億2000万円余りであるが、公立学校施設整備費国庫負担金が4億8000万円、学校環境改善交付金が3000万円近く、そして過疎債が18億5000万円となっている。過疎債の存在がいかに大きいかがわかる。大変な出費であるが、5割以上の原木は村有林から伐採され、民有林の原木代が約2000万円、そして製材加工費が約2億9000万円である。これらのほとんどは村内に落ちるお金であることは重要である。なお、学習机や椅子の製作にはクラウドファンディングも活用された。
川上村の村有林には人工林で樹齢400年を超える「歴史の証人」と呼ばれる杉が3本あった。今回、そのうち最古のものではない1本が伐られ、素晴らしい柾目板がデザインウォールや室名札に活かされた。自然の中の暮らしに関心を持つ都市の家族にぜひ知ってもらいたい校舎である。このかけがえのない校舎に学ぶ児童・生徒は今のところ100人に満たないが、村のすべてが注ぎ込まれたと言っていいこの校舎から素晴らしい人材が育つ日が、一日も早く来ることを祈りたい。