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地方自治体の担い手不足―若者の公務員離れ

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年3月25日

早稲田大学政治経済学術院教授 稲継 裕昭(第3274号 令和6年3月25日)

 先日、日本記者クラブで記者会見をする機会をいただいた。テーマは「自治体の採用難、若手の離職」。人材確保・引き留めのテーマが与えられたことは意外だった。ちなみに、大谷翔平が記者会見する際は200席以上全席を使うが、私などの場合は、左右の緞帳が下りて真ん中だけの狭いスペースで行われた。

 自治体全体の採用試験の受験者数は20年前の60万人台が今では40万人台。東京都でも地方部でも等しく低下傾向にある。試験日の分散化や複数回の試験実施自治体の増加で一人の受験回数は従来の2回以内から4、5回以上に増えており、実質的な受験者層は数分の1になる。若手の離職も顕著で30歳未満の離職者数は、9年間で2.7倍に増加している。

 国際的に見て極めて多様な業務を極めて少数の職員で遂行している日本の自治体では業務が質量ともに年々増大し、職員の負担増も著しい。職員に疲弊感が広がり、メンタルヘルス不調での長期急病者率は直近では2.1%。15年前の2.1倍、25年前の8.7倍に増加している。

 なぜ若者は自治体を志望しないのか。一つは民間企業の採用スケジュールとの時期の大きな乖離。二つに、学生たちの就職観で最も多い「楽しく働きたい」というニーズを満たすように見せられていない。三つに年功給的な給与カーブを若者が忌避。四つに、組織内で自己成長をと考える若者の選好に十分に応えられていない。

 なぜ若者は自治体を早期離職するのか。キャリアショックによるもの、ステップアップを考えるもの、希望の分野に就けないこと、ハラスメントを受けてなどが多い。辞職を決断したあとは、転職エージェントが次の就職先を見つけてくれる。

 解決の糸口はなかなか見えない。各自治体も採用試験方法の改善など様々な努力をされている。だが、自治体同士で人材の奪い合いになるのを防ぐには公務志望のパイ自体拡大が必要だ。公務の魅力をさらに高める工夫、兼業規制の緩和、流動性の拡大など、いずれも重要な課題だ。また、地域で担ってもらえるものを役場が手放す方向性も検討の余地がある。

 住民サービスの土台である自治体職員。その担い手不足は社会課題でもある。社会全体で考えていく必要性が強いと考える。


※会見の模様は動画で日本記者クラブのHPで公開されています。
(日本記者クラブ→これまでの記者会見→2月26日。
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/36683/report