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町村合併によりもたらされたこと

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年2月19日

作新学院大学名誉教授 橋立 達夫(第3270号 令和6年2月19日)

 「平成の大合併」の大波が沈静化して十余年。現場でのまちづくりに関わる中で、今更ながらではあるが強く感じることがある。合併をした旧町村では、その地域の将来を考える組織(役場と議会)と財源が失われたということである。

 その結果、従前であれば住民は身近にいた議員や役場の役職員に話を持ち掛けることで要望を伝えることができたが、そのような太いチャンネルはほとんど失われている。にもかかわらず従来のやり方を忘れられない人たちは、合併後の新市町村は何もしてくれなくなったと嘆くばかりである。

 こうした閉塞的な状況を打破するためにはどうしたらよいか。

 実は、地域の将来を考えて住民が何か活動をしようという時に、これまでとは違うチャンネルが用意されている。すなわち、まちづくりを志す住民団体が声を上げれば、活動の助成を行うという仕組みが多様にあるのである。助成対象は任意団体であっても構わないというものも多い。任意団体であっても、こうした公的な助成制度を用いた事業として活動することで、地域の中を説得する力を持つことができる。助成制度が見つからなければクラウドファンディングという方法もある。

 若者よ、地域生活の課題に精通した女性たちよ、地域のためにもうひと働きしたいという高齢者よ、声を上げよう。新しい仲間を作ろう。チャンスは広がっている。あなた方が発案し、自分がやりがいと楽しさを感じる活動が、結果として地域の活力の源になる。従来のやり方に固執せず、協力して何かを成し遂げようという人間関係を再構築しよう。住民が地域の将来に向けて動き出す力はその中から生まれる。

 さて、こうして書いてくると、この問題は、平成の合併を行った市町村の問題だけではなく、合併をしなかった町村にも共通する問題であることが分かる。どの町村も、これまで幾度となく合併をしてきたわけであるから。今、行政は、議会は、住民の中に生まれる活動の萌芽を敏感に察知して生かすための感性を磨く必要がある。