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故郷にある「起業の芽」に気付く教育

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年1月8日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3265号 令和6年1月8日)

 昨年10月、全国町村会が主宰する町村職員対象の「地域農政未来塾」の現地視察旅行で、島根県邑南町と山口県周防大島町を訪れた。

 いずれも独創的な地域づくりで有名で実り多い旅だったが、今回とくに興味深かったのは、ゼミ生の町村職員たちが共有する課題のひとつに「若い世代がいかに故郷への愛着と誇りを持ち、いずれ戻りたいと思うような地域づくりのあり方」があったことだ。

 たとえば、地域住民自らが地域の課題解決を話し合い実践する事業は、住民が地域を「自分事」として考える主体性を醸成する素晴らしい取組みだ。ただし、主役はどうしても圧倒的多数の高齢世代になり、少数派で遠慮がちな若者たちの声は反映されづらく、その結果、若い世代が地域を自分事と感じられなくても無理はない。

 地域の将来を担うプレイヤーとなるような若者を育てることはできないか。今回訪れた周防大島高校の実践は、そのことを考える上で、ゼミ生たちの心に残ったようだ。

 同校では、「普通科」の他に全国で初めて「地域創生科」を設置し、「島じゅうキャンパス」を合い言葉に、住民や事業者も巻き込み、フィールドワークなどを通じて地域課題の解決を考える、地域に根ざしたカリキュラムを組んでいる。

 同時に、「地域みらい留学」制度を活用して島外からも生徒を呼び込んでいる。地元出身の生徒は、島外出身の同級生と共に学ぶ中で、それまで当たり前と思っていたものが貴重な地域資源だと気づく効果もある。

ちなみに同校は、一般社会人も応募対象の内閣府「地方創生☆政策アイデアコンテスト」で上位入賞を何度も果たすなど、地域資源を活かした起業の発想力に定評がある。SNS時代に適応した未来志向のアイデアは、私たち60代以上より10代のほうが上だ。

 日本では今、東京圏に出て大企業に入社さえすれば安泰だった高度成長期のモデルが壊れかけ、国も起業家育成に力を入れている。また、地方創生策としても高校魅力化支援事業が実施されている。

 もはや、必ずしも若者が「都会に行かなければ自己実現できない」時代でなくなりつつある今、「事業の芽は足元の故郷にもある」という「気づき」があれば、いったん町村外に出て社会人として実力を養った後、いずれ帰って起業したいと考える若者も登場するのではなかろうか。