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富山での全国過疎問題シンポジウムを終えて

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年12月11日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3263号 令和5年12月11日)

 10月26.27の両日、富山県で全国過疎問題シンポジウムが行われた。各県で毎年引き受けてきて34回目になる。富山での開催が比較的遅かったのは、水力発電を端緒とする工業化の進行が早くて職場に恵まれ、過疎地域が少なかったことにもよる。

 筆者が最も国の政策と関わってきたのが過疎問題で、総務省の過疎問題懇談会の座長と過疎地域優良事例の表彰委員長をほぼ20年務めさせていただいた。座長は一昨年の新法制定を機に退かせていただいたが、表彰委員長の方は、私の住む富山シンポを最後に退くことになった。富山シンポでは加えて基調講演もさせていただき、富山で大役を終えることができたことは、一際感慨深いものがある。

 人口減少傾向の中で、過疎地域は減少の数にとらわれることなく、少数の人々が新しい生きかたをめざす、豊かな少数社会の構築こそ目標であるべきである。そこから都市とは異なる価値が育っていく。これは筆者の20年以上にわたる持論であるが、今年度の表彰地域の中にもその新しい方向がいくつか見えた。

 新潟県旧山古志村は地震で壊滅的な被害を受けた。集団で避難し、錦鯉という地場産業もあってかなりの人が戻っているが、人口は千人に満たない。ここではローカルの価値を最大限に広げるのがデジタルという考えから、DAOと呼ばれる分散型自立組織を活用、差し替え不可能なNFTを「デジタルアート×電子住民票」として活用し、人口800人の村がNFTを接点とした世界にまたがる共同体を形成している。小さな村の未来志向として素晴らしいチャレンジだと思う。そして帰省と称してむらをおとずれる人の中には移住に踏み切る人も少なくないという。

 徳島県つるぎ町の家賀集落は、丁寧に耕作された斜面農業で世界農業遺産の一部となっているが、この景観を守ろうと、他の地区に住む縁者がグループをつくり、耕作に通って藍栽培を復活、パウダー加工して「食べる藍」を商品化するなど、地域の価値を守り育ててこれからは移住者が現れる可能性もある。

 旧山古志村のケースも家賀集落の場合も、いわば他人が地域の価値に感じ、その地域の仲間、ひいては主役になっていく動きの一端であると思う。関係人口という言葉が生まれて久しいが、常住人口が減っても、今は本当に思いがけない関係が生まれる時代である。過疎地域のその点をも含めた発展を心から祈りたい。