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現場スタッフにリスペクトと学習の目を

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年10月16日

作新学院大学名誉教授 橋立 達夫(第3257号 令和5年10月16日)

 指定管理者制度が生まれて20年が経過した。全国の市町村では、6万2千以上の公共施設が指定管理者により運営されている。

 この制度が生まれた背景には、国民意識・生活の多様化に合わせて、定型的な行政サービスを脱し、よりきめ細かく効率的なサービスを民間・市民目線で行いたいという時代の要請があった。また同時に、事業のアウトソーシングにより、行政の事務・財政負担を軽減する手段としても期待された。

 指定管理者は当該施設の管理運営について、入場料や施設使用料の徴収権を含む多くの裁量権が与えられる。しかしとくに図書館や児童館、コミュニティ・センターなどの日常的な市民利用施設は、料金徴収になじまないものがほとんどで、民間企業の参入は見込めず、当該地域の市民団体が指定管理者になる例が多い。

 こうした施設では、管理運営経費を行政が支弁しているのであるが、指定管理の状況が続くにしたがって行政は、運営の報告書と次年度の計画書を受け取るだけになり、公共施設の運営主体としての意識が薄れていく。行政の担当者にとって、経費節減が主目的となってしまい、その結果、もともとぎりぎりの予算が示される上に、「毎年、委託経費を〇%削減する。」などということが行われる。

 これでは、意欲的な新事業への取組ができなくなるのはもちろん、真っ先に削られるのが、現場で働くスタッフの人件費になる。とくに対象施設の運営のためだけに立ち上げられた市民団体の場合は、指定管理の期限が切れてしまえば組織が成り立たなくなることから、スタッフを正規雇用することが難しく、スタッフは不安定かつ低賃金での就労を余儀なくされる。有意の人材がワーキングプア(注1)の状況に追い込まれているのである。

 市民と接する現場の仕事の重要性と苦労を行政マンはよく知っているはずである。そうした苦労を厭わず現場に立ち、明るく利用者に接するスタッフに、是非リスペクトと学習の目を向けてほしい。行政の担当者が現場に接することがなければ、運営のノウハウは指定管理者の中にのみ蓄積される。現場のスタッフが疲弊して運営が成り立たなければ、指定管理者を入れ替えればよいという考えは成立しない。


(注1)「官製ワーキングプア?」(2023年2月10日NHK WEB特集) 参照